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浮遊戦艦『三日月』

「少佐、ひとまず応急処置をしましょう。アレは乗組員の彼らが対応してくれますから。」


そう言いながらローズは俺に肩を貸した。


「はぁ…?馬鹿言うんじゃねえ。あいつは俺が始末する。砲撃の準備だ…ぐっ!」


痛ってぇ…肩がズキズキ痛みやがる…!


「少佐…!駄目ですよ!」


こいつ…いつになく口調がはっきりしてんな。やっぱあいつを好きになるだけはあるな。


そう考えていると、ツカツカと言う足音が聞こえて来る。


その足音の先には男がいた。


「無理もないっすよ、少佐殿。特別戦闘服も来てなくて、アレと戦って生きている方が驚きです。」


男は170くらいの身長で、緑色の伸びた髪を一纏めにして後ろに結び、黒いシャツの上に白衣を着ていた。


「何もんだ?」


「軍医でございますよ。姓をディフィン、名をリヒトと申します。少佐殿、女性に肩を貸して貰っている状態で、戦えると言われても、信憑性が全くないっすよ。意地張らずに、ささ、どうぞこちらへ…」


そう言いながら、男は俺を連れて行こうとする。


こんなのらりくらりとした人間の言うことを聞くのも癪だが、俺が小っ恥ずかしい姿なのも確かだ。


「ちっ…分かったよ。ローズ、悪いがもう少し肩貸しちゃくれねえか?」


「りょ、了解しました。」


そうして俺たちはその場を離れた。


男はポケットに手を入れながら、鼻歌を歌っている。


こんな奴が治療できるのか…?


「さ、医務室です。少し時間が掛かりますので、大尉殿はここでお待ちを。」


そういうと男は俺を連れ、中に入りドアを閉めた。


「さて…そこに座ってリラックスして下さい。消毒から始めますので。」


俺は指されたクッション製の椅子に腰を掛ける。


男は薬とピンセットと脱脂綿を持ってきて、俺に話しかけた。


「さてと…それで、今少佐殿はどちらの少佐殿何ですか?」


!!こいつ、俺たちの正体を知っているのか…?


「…どうして知っている?」


「自分は最強兵器の搭乗員なんですよ?それなりの地位にはいますし、医者ですから、お偉いさん方とも繋がりはありますとも。ええ。病気というのはどんな人間であろうと起こりうるものっすからね。

戦場に行くと性格が一変してまるで別人のようになる変わった少佐…。

容姿なんかも聞いていましたから、すぐに分かったっすよ。

そして、お会いして確信しました。“この人にはもう一つ人格がある”と。」


こいつ…!


「…何故だ?ただの戦闘狂ってだけかもしれないんだぞ?」


「それに関しては簡単っす。以前自分はもう一人のあなたとお会いしましたから。言いましたよね?“何もんだ”って。ここまできたら疑いようが無いでしょう?記憶喪失の戦闘狂と考えるよりも断然良いですし。」


なるほどな…。いつもの生真面目なあいつなら覚えていたってことか。


「それで、知ってどうするんだお前は?実験台として研究部門のイカレサイコ共に俺を渡してやるか?」


「いやまさか!秘密というのは少数が知っているからこそ秘密なんっす!」


男は傷口に薬を塗りながら言う。


「そうかよ…それなら良いんだ。」


あいつが目覚めたら伝えておかないといけないな…


「それで、少佐殿は今表の人格?それとも裏の人格?」


「俺たちに表も裏もねえよ。まぁ、強いて言うならあいつの方が身体の制御権を持っている時間が長いかもな。」


「ほう…。それじゃ、何で今はあなたが身体を使っているのですか?」


「それはこいつが奴にやられて…そうだ!奴は今どうなっている!?」


あいつの力じゃ普通の戦艦なら制圧してしまうだろう。


状況によっては俺も行かなければならなくなる。


「見に行きますか?包帯がまき終わるまで待って下さいっす。」


「そんな悠長なこと_____」


「少佐殿、この戦艦は月宮の現時点最終兵器っすよ?浮遊能力を組み込み、超火力で敵を殲滅する破壊兵器、それが防御システムを組み込んで無いとお思いで?」


「…!!」


一刻も早く始末しないといけないと思っていたが…果たして…どれほどの力を持っているんだ?


「応急処置は完了です。コックピットに大型のモニターがあるので確認できますよ。ここを出て適当に歩いていれば着くようになっているっす。」


それを聞いた俺は真っ先にコックピットへ走っていった。


コックピットは非常に大きく、何人もの人間が操作をしていた。


「敵対生物の生命継続を確認!再度散弾銃を撃ちます!」


モニターにはこちらに飛翔して来る奴の姿があった。


が、戦艦と一定の距離に近づくと落ちていってしまう。


「なんだこりゃあ…?」


「AMB、対魔法バリアだよ。この戦艦は月であり太陽、空の支配者。仮初の翼だけの存在は地に落ちる。神話のように。バージン・ウェイド、この戦艦の艦長だ。よろしく。」


そう言いながらこちらに歩いてきた壮年の男は、険しい顔をして俺に握手を求める。


俺は握り返しながら。


「伝えておくが、あいつは基本死なないぞ。身体の再生が極端に早いからな。」


と忠告した。


「ふむ…ではどうするべきかね?」


「決まってんだろ、ここの兵器全部持ってこい。一斉射撃でかたをつける。」


「いいだろう、少佐殿の頼みならば持ってこよう。総員!全ての兵器を準備せよ!ゼウスからオーディーンまで全てだ!」


その指令と共に、戦艦の船底が開き、幾つもの機械が現れる。


機械群はそれぞれが輝き、極彩色の光を放っていた。


それでも奴はそこを動かず、ただ見ているだけだった。


「撃てっ!」


光が地へ降り注ぎ、焦げた荒野が後には広がるだけだった。

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