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どくろと転生少女の異世界ポンコツ事件簿  作者: みぃ
第三部 御殿の見習い
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第60話 誰の用向き

 次にルートガーが来た日も、取次の卓には書状と茶が並んだ。


 テレサは注ぎ終えた茶器を盆へ戻す。


 どくろんは腰の袋に収まっていた。朝に命じたとおり、声を出さずにいる。


「お返書を頂いてまいります」


 ヨーゼフが帳面を閉じ、席を外した。


 ルートガーは卓へ置いた控えを揃え、袋の口を開く。


 テレサは盆の端から手を離した。


「ルートガー様。少し、伺ってもよろしいですか」


 相手の手が止まり、こちらへ顔が向く。


「何でしょう」


「先日のお菓子と一緒に、奥様宛ての紙もお預かりになりましたか」


 ルートガーは袋から手を抜いた。


「カタリーナ様からのお尋ねでございますか」


「いえ。私が確かめたくて」


「では、カタリーナ様は、何を不足とおっしゃっておいででしょう」


 テレサは開きかけた口を閉じた。


 不足だと言われたことはない。


「奥様から、不足があるとは伺っていません」


「さようでございますか」


 ルートガーは揃えた控えを、もう一度卓へ置いた。


「お菓子は、二種類ともお渡ししております。器も、先日確かにお返しいただきました」


「はい。それは確かめました」


「お受取りの折にも、ご一緒でしたね」


「はい」


「書状と進物は、ヨーゼフ殿にもその都度お確かめいただいております」


 指が控えの角へ揃う。


 テレサは、菓子を台所へ運んだ日のことを思い出した。


 品も、器も、受け渡しは間違っていなかった。


「お菓子の数ではなく、一緒に届けるよう頼まれた紙のことです」


「その紙については、どなたからお聞きになりましたか」


 テレサは顔を上げた。


 ルートガーの声は変わっていない。


「お母様から預かり、ルートガー様へ渡したと伺いました」


「それを、どなたのお言葉として確かめればよろしいのでしょう」


 買い物先で会った女の人は、自分が渡した物を答えただけだった。


 不足を訴えるために、テレサへ話したのではない。


「その方から、確認を頼まれたわけではありません」


「承知いたしました。では、次のお菓子についてカタリーナ様がお尋ねだと、ロザリンデ様へお伝えしてよろしいですか」


「いえ。それも頼まれていません」


 答えると、ルートガーは少し頭を下げた。


「お言葉を違えてお伝えするわけにはまいりませんので」


 テレサは盆の縁へ指を戻した。


 窓から入った風が、控えの端を動かす。


 ルートガーは指先でそれを押さえ、待っている。


(うちが聞きたいんは、そこやない)


「本家へお伝えいただく用件ではありません」


 テレサは、言葉を区切った。


「ルートガー様が、その紙をお預かりになったかを伺っています」


「本家からのお預かり物の確認でしたら、私が承ります」


 返ってくる声も、丁寧に区切られていた。


「ロザリンデ様にも、私からお尋ねいたします」


 テレサは返事をしなかった。


 その人が何を預かったかを、その人に聞いている。


 母へ尋ねるという用件にして渡したら、戻ってくる答えも、この人からになる。


「今、預かったかどうかだけでも伺えませんか」


「お答えを、どちらへお届けする確認でございますか」


 ルートガーは控えから手を離した。


「カタリーナ様のお用向きでしたら、そのように承ります。そうでなければ、何をお確かめになりたいか、ご本人のお言葉を頂いてからの方がよろしいかと」


 テレサは息を吸った。


 選ぶようには言われていないと、カタリーナは答えた。


 どちらが好きかも、答えた。


 だが、その返事を本家へ問いただす言葉にしていいとは言われていない。


「奥様のお言葉としては、お預けできません」


「では、用向きがお決まりになりましたら、改めて承ります」


 ルートガーは控えを持ち上げ、袋へ収めた。


 聞く言葉なら、決まっていた。


 けれど、その言葉をもう一度口にする前に、戸が開いた。


 ヨーゼフが戻ってくる。


「こちらを、お願いいたします」


 卓へ置かれた返書を、ルートガーは両手で受けた。


 宛名を確かめ、紙の端が折れないように袋へ入れる。


「確かにお預かりいたします」


 立ち上がる前に、茶を一口飲んだ。


 テレサは一歩下がり、通り道を空ける。


 ルートガーは二人へ一礼し、ヨーゼフと戸口へ向かった。


 袋の口がきちんと閉じられているのを、テレサは見送った。


――


 卓に残った器を盆へ載せた。


 菓子と一緒に届ける紙は、預かったのか。


 その問いには、まだ返事がなかった。


 テレサは盆を持ち上げ、台所へ戻った。


 茶の残りを流すと、器の底に葉が一枚張りついている。


 水を入れて傾ける。葉は縁へ流れ、もう一度傾けると落ちた。


 布で拭いた底を見てから、乾いた器を伏せる。


 言っていたことは、一つずつなら間違っていない。


 品は届いた。返書も預かった。誰の言葉かを違えずに取り次ぐ。


(せやけど、預かったかどうかの返事は、一つも聞けてへん)


 テレサは布を置いた。


 片づけ終えた盆の上には、もう何もなかった。


 用口へ戻ると、グレーテが次の仕事を示す。


 テレサは頷き、畳まれた布を受け取った。


 運び終え、戻ったところで声をかける。


「奥様に、ご報告したいことがあります」


「今の取次のことですか」


「はい」


 グレーテは棚から手を離した。


「伺ってきます。ここで待ちなさい」


 テレサは受け台の脇へ立った。


 袋の中で、どくろんが少し向きを変える。


 布の口からこちらを見たが、何も言わなかった。


 テレサも、その顔へ一度目を落としただけで、グレーテが戻るのを待った。


――


「菓子の話は、聞けたか」


 居室へ入ると、カタリーナが先に尋ねた。


 テレサは机の前で足を止める。


「聞けませんでした」


「預かっていないと?」


「いえ。そこには、答えていただけませんでした」


 カタリーナは手にしていた紙を机へ置いた。


 テレサは今日の問いから話し始めた。


 菓子と一緒に届ける紙も預かったかと聞いたこと。


 誰の用向きかを問われ、正式な品は揃っているという話になったこと。


「本家へ何を伝えるのかと、何度も聞かれました」


「お前に、そんな用事は頼んでいないな」


「はい。そうお答えしました」


 カタリーナが椅子へ座り直す。


「それで?」


「お母様への確認は、ルートガー様が引き受けると」


「任せたのか」


 テレサは首を振った。


「同じ方からしか、お返事を聞けなくなります」


 カタリーナはしばらくテレサを見ていた。


「続けてくれ」


 テレサは腰の袋へ手を添える。


「どくろんにも、話させてよろしいですか」


「ああ。出していい」


 袋の口を開くと、どくろんが浮き上がった。


「どくろん、もう話していいよ。今の紙と、受渡しの話を一緒に説明して」


『了解シマシタ』


 テレサの肩の横で止まる。


 カタリーナはそちらへ顔を向けた。


「紙を預かったかと聞いた。その返事はなかったのだな」


『預カッタカドウカノ回答ハ、アリマセン』


「代わりに、何を言った」


『「ロザリンデ様ニモ、私カラオ尋ネイタシマス」ト、申シ出マシタ』


 カタリーナはテレサへ目を戻した。


「母に聞くことにしたいのか」


「お母様にも、何を届けるよう頼まれたか確かめたいです。まずは、預かったかを伺いました」


 どくろんが少し顔を傾ける。


『二ツノ確認ハ、同ジデハアリマセン』


「そやねん。お母さんに聞きたいんは、何を届けるよう頼んだかや。あの人には、自分が預かったんかを聞いてるんや」


 カタリーナの視線が、一瞬テレサの口元へ移った。


 テレサはどくろんへ顔を向けた。


「そこを聞いたら、誰の用事かって返ってくるやろ。お母さんに何を言うかを決める話やないのに」


『質問者ハ、ますたーデスト伝エテイマス』


「伝えた。せやのに、奥様のお言葉をもろてからって――」


 机の向こうの顔が、こちらを向いていた。


 テレサは言葉を切る。


 カタリーナの目が、どくろんからテレサへ戻った。


「……奥様」


「うん」


「私が、確かめたくて聞きました」


 さっきより短い声になった。


 カタリーナは机へ肘を置く。


「そこまでは聞いた。続きを」


 テレサは下げかけた目を上げた。


 どくろんは肩の横に浮いたまま、次の言葉を待っている。


「お菓子が揃っていたことは、疑っていません」


 カタリーナが頷く。


「けれど、紙をどう扱ったかは、分からないままです」


 カタリーナは指で机の端を叩いた。


「その者は、自分で紙を渡したのだな」


「はい。グレーテさんも、一緒に聞いています」


 どくろんへ目を向ける。


『母親カラ預カリ、包ミト一緒ニ渡シタト、話シテイマス』


「選んでほしいという問いも、その紙に?」


「そこは、分かりません。紙の内容までは知らないそうです」


 カタリーナが頷く。


「選ばせたいという話と、紙を渡した話は分けておくか」


「はい。ヨーゼフさんも、その紙は受け取っていないと。品の帳面では分からないそうです」


「そうか」


 カタリーナは机に置いた紙を寄せた。


「なら、まず母に聞こう」


 テレサは頷いた。


「ルートガー様を通さずに、確かめられますか」


 カタリーナの指が止まる。


「その者の話も、もう一度」


 続けてから、テレサは口を閉じた。


 カタリーナはしばらくこちらを見ていたが、やがて白い紙を一枚引き出した。


「本家へ書く。母が何を預けたのか。その者が渡した話も、別に確かめてもらおう」


 ペンを取り、先を確かめる。


「こちらの受渡しも、ルートガーに控えを持ってこさせる」


「奥様の、ご用件としてですか」


「ああ。受け取った物を確かめる。何もおかしくはない」


 テレサは息をついた。


「一つずつでいい」


 カタリーナはペンを持ったまま、テレサを見た。


「今日聞けなかったことを、もう一度言ってくれ」


 テレサは机の前へ少し寄った。


 どくろんも、その肩の横へついてくる。


「ルートガー様が、あの手紙を預かったかどうかです。預かったのなら、誰に渡したのかも確かめたいです」


 カタリーナが頷き、白い紙へ目を下ろした。

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