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どくろと転生少女の異世界ポンコツ事件簿  作者: みぃ
第三部 御殿の見習い
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第59話 誰から聞いたか

 グレーテが二つの包みを盆へ載せた。


「今日は、こちらをお返しします」


 テレサは拭き布を置き、盆へ手を添える。


 取次の間では、ルートガーがヨーゼフへ書状を渡していた。


 空いた卓へ盆を置くと、グレーテが包みを開く。


「蓋も、こちらに」


「確かにお返しいただきました」


 ルートガーは器の数を確かめ、二つの包みを引き寄せた。


 ヨーゼフが帳面へ書き入れる間に、テレサは空いた盆を下げる。


 受渡しを終えたルートガーは、返書と器を持って帰っていった。


――


 午後、テレサは空の籠を持ってグレーテについていった。


 買い足すのは、糸と縫い針だった。


 どくろんは朝から腰の袋に収まっている。買い物の間も黙っているよう、出る前に伝えておいた。


 店に入ると、グレーテは持ってきた糸の端を台へ置いた。


「これと同じ太さのものを」


 店の人が、奥の棚から二つ持ってくる。


 テレサは籠を下ろし、並べられた糸を見た。


 グレーテが見本を重ねると、片方は少し太い。


「細い方ですね」


「ええ。針も、一包みください」


 店の人が糸と針を包み終え、グレーテが代金を払う。


 テレサは小さな針の包みを、糸の間へ挟んだ。


 籠を抱えて店を出て、グレーテと通りを歩く。


 向こうから来た女の人がグレーテを見て、足を止めた。


 グレーテも立ち止まる。


「こんにちは」


「こんにちは。お買い物ですか」


「ええ。あなたもですか」


「はい。屋敷で頼まれた品を買ってきたところです」


 女の人が、抱えた包みを示した。


 グレーテがテレサへ顔を向ける。


「こちらは、本家のマルタさんです。テレサは、うちの見習いです」


 テレサは籠を持ったまま頭を下げた。


「初めまして」


 マルタも会釈を返す。


「先日、カタリーナ様へお送りしたお菓子は、わたしも包みを用意したんです」


 テレサは二つの器を思い出す。


「丸いのと、四角いのが入っていた分ですか」


「ええ、そちらです。召し上がっていただけましたか」


「はい。二つとも、おいしかったそうです」


「そうでしたか。よかったです」


 女の人の口元が緩んだ。


 抱えていた荷を持ち直し、グレーテに向き直る。


「では、失礼いたします」


 相手が頭を下げる。


 テレサは、カタリーナが食べかけの菓子を持ったまま茶を飲んでいたところを思い出した。


「丸い方は、お茶と召し上がっていました」


 女の人がこちらを向く。


「甘い方は、猟から戻った時に欲しいそうです」


「では、次も二種類をと、ロザリンデ様へお伝えしてよろしいですか」


 テレサは顔を上げた。


「……いえ。待ってください」


 籠の持ち手を握り直す。


「私が聞いたのは、食べ方だけです。お返事は預かっていません」


「お返事を聞かせていただいたのかと思いました」


「次は、どちらかを選ぶんですか」


「次は、お選びになった方をお送りすると伺っていたものですから」


「選んでほしいと、お母様がおっしゃったんですか」


「ええ。ロザリンデ様が、そうおっしゃっていました」


 グレーテが、相手へ顔を向ける。


「選んでいただくというお話は、伺っておりません。お礼はお預かりしましたが」


「ああ、そうでしたか」


 テレサは相手を見る。


「そのお話は、包むときに聞かれたんですか」


「そうです。丸い方を入れていたときに」


 女の人は荷を片腕へ抱え直した。


「昔は、どちらもよく召し上がったそうで。今はどちらがお好きか、次は本人に選んでもらおうと」


「奥様へ、その話を伝えるようにも頼まれたんですか」


「言づけではなく、手紙を一通預かりました」


「どなたからですか」


「ロザリンデ様からです。包み終えたところで、折った紙をお渡しになりました」


 テレサは、相手の手元へ目を落とした。


「カタリーナ様へ、菓子と一緒に届けるようにと」


「その手紙は、どうされたんですか」


「包みと一緒に、ルートガー様にお渡ししました。わたしが取次へ持っていきましたので」


 グレーテがテレサを見てから、相手へ顔を戻す。


「手紙も、わたしは受け取っておりません。奥様のお手元を確かめます」


「そうでしたか。もうお読みになったものとばかり」


 テレサは口を開きかけ、一度閉じた。


「手紙にも、選んでほしいと書いたとおっしゃっていたんですか」


「文面は伺っておりません。先ほどのお話を書かれたのかと思っていました」


 折ったまま預かり、そのまま渡したという。


 テレサは頷いた。


 マルタが荷を持ち直すと、グレーテが今の持ち場を確かめた。


 答えを聞いて礼を言い、そこで別れた。


――


 御殿へ戻ると、テレサは籠から糸の包みを出した。


 針の小包を見失わないよう、先にグレーテへ渡す。


「奥様に、さっきのことを伺ってもいいですか」


「菓子に添えた手紙のことですね」


「はい」


「今なら、お部屋にいらっしゃいます」


 テレサは空の籠を戻し、居室へ向かった。


 腰の袋は静かなままだった。どくろんは通りでのやり取りも、テレサと一緒に聞いている。


 戸の前で名乗ると、入っていいと返事があった。


 カタリーナは机から顔を上げる。


「菓子は、もう食べたぞ」


「はい。一緒に、手紙も受け取られましたか」


「手紙?」


 テレサは、買い物帰りの通りで、本家の使用人に会ったことを話した。


 その人は、菓子と一緒に届けるよう、母から手紙を預かったという。


 ルートガーへ渡したのも、その人だと伝えた。


 カタリーナは机に置いていた手を引いた。


「受け取っていない」


「どちらのお菓子が好きか、とも尋ねられていませんか」


「聞いていないな」


 椅子の背へ体を預け、テレサを見る。


「母から、返事を聞いてこいと?」


「いえ。食べ方を話したら、お返事だと思われたようです」


 手紙の文面は知らず、包んでいたときの話から、そう思っていたのだと付け加えた。


「そうか」


 カタリーナは少し考えてから、机の端を指で叩いた。


「どちらかと言われれば、丸い方だな」


「お茶と召し上がった方ですか」


「ああ。あれなら、猟に出ない日にも食べたい」


 テレサの口元が少し緩む。


 カタリーナは、その顔を見て眉を上げた。


「甘い方も、いらないとは言っていないぞ」


「はい」


「そういう問いなら、答えられる。二つとも食べたのだからな」


 テレサは頷きかけ、そこで止まった。


 好みを答えることには、何もためらわなかった。


 けれど、母から選ぶようにとは聞いていないという。


「お礼だけは、伝えるよう頼んだな」


「ヨーゼフさんにお預けしました」


「なら、それでいい」


 カタリーナは机へ目を戻した。


 テレサは一礼して、戸口へ下がる。


 好みの答えは聞けた。


 その問いが書かれていたのかは、まだ分からない。


 けれど、娘へ届ける手紙を預かったという人がいて、カタリーナは受け取っていなかった。


――


 用口へ戻ると、ヨーゼフがグレーテから買い物の報告を受けていた。


 受け台の脇には、買ってきた糸が置かれている。


「奥様は、手紙も、選んでほしいというお話も受け取っていないそうです」


 テレサが伝えると、ヨーゼフは帳面から顔を上げた。


「先方の方が、手紙をお預かりになったのですね」


「はい。お母様から預かって、ルートガー様へ渡したそうです」


 グレーテが頷いた。


「わたしも、隣で聞きました。菓子と一緒に届けるよう頼まれたと」


 テレサは開いている帳面へ目を向ける。


「手紙も、そこに書いておくんですか」


 ヨーゼフは少し前の頁を開いた。


「こちらは、ここでお受けした品の記録でございます。菓子は二種。器も二つ、蓋付きでお受けしています」


 指が、その行をなぞる。


「一緒に来る手紙までは、載らないんですね」


「ええ。私的なお便りを、一つずつ記す帳面ではございません」


 指が行から離れた。


「その手紙は、わたくしも承っておりません」


 グレーテが糸の包みを脇へ寄せた。


「開いた包みにあったのは、器だけです」


 テレサも、そのときの卓を思い出す。


 蓋のある器を、包みごと盆へ載せて運んだ。


「では、まだルートガー様がお持ちなのでしょうか」


「そこは、御本人に確かめませんと」


 テレサは少し考えてから頷いた。


 ヨーゼフは、今朝の返却を書き入れた頁へ戻る。


 受け取った器も、返した器も、二つだった。


「奥様は、尋ねられれば答えられるとおっしゃいました」


「お答えと、手紙のお受取りは分けておきましょう」


 ヨーゼフは帳面を閉じた。


 グレーテが脇へ寄せていた布を、テレサへ渡す。


「残りを畳んだら、こちらへ」


 テレサは布を受け取った。


 端を揃えて持ち直すと、折れていた角が一つ、下から出てくる。


 そこを戻してから、広げる場所を空けた。


――


 仕事とクロエの世話を終えて部屋へ戻ると、テレサは腰の袋を外した。


「どくろん、もう話していいよ」


 袋から浮き上がったどくろんが、こちらへ顔を向ける。


 テレサは着替えを済ませ、寝台の端へ座った。


「今日、うちは食べ方を話しただけやったやろ」


『丸イ方ハ茶ト、甘イ方ハ猟カラ戻ッタ時ニ欲シイト、伝エマシタ』


「せやのに、次も二つ欲しいっていう返事を、うちが足してまうとこやった」


 テレサは膝の上で指を組みかけ、手を離した。


「あの人は、奥様がもう聞かれてると思うてたんやな」


『ソウ話シテイマス』


「奥様に聞いたら、丸い方やって。甘い方も要らんとは言うてへんって、すぐ付け足しはった」


 机の端を叩きながら答えた声を思い出す。


「あの手紙に、どっちがええかって書いてあったんやろか」


『文面ハ知ラナイト、答エテイマス』


 テレサはどくろんへ顔を向けた。


「せやな。選んでもらう話は聞いた。手紙は預かった。そこは別や」


『手紙ハ自分デ渡シタト、話シテイマス』


「ルートガー様へな。奥様は受け取ってへん」


 膝の上に置いていた手を開く。


「まだ預かったままなんか、別の人へ渡したんか」


『所在ハ、未確認デス』


 テレサは肩を壁へ預ける。


 家族の仲が悪くても、好物は食べる。


 昼に会ったカタリーナも、そこは変わらなかった。


「みんな、仲悪いと思うてる。それは分かった」


 どくろんが、寝台の端の高さまで下りてくる。


「けど、返事せえへんのを不仲のせいにする前に、何が届いてたんか、やな」


『手紙ノ内容ト、届ケ先ノ確認ガ残ッテイマス』


「うん。品が届いたんと、一緒の話にしてた」


 言ってから、膝へ目を落とした。


 しばらく、部屋の中は静かだった。


 通りで、荷を持ち直した相手の手を思い出す。


 二つともおいしかった。それだけで、別れるところだった。


 テレサは顔を上げた。


「次に来はったら、ルートガー様に聞いてみる」


『何ヲ尋ネマスカ』


「お菓子と一緒に、奥様宛ての手紙も預かりましたか。預かってたなら、誰に渡しましたか」


 口に出してみてから、テレサは頷いた。


「仲がええか悪いかは、それ聞いても分からんやろうけど」


『家族ノ関係ヲ、尋ネテハイマセン』


「今は、それでええ」


 靴を脱いで揃え、寝台へ足を上げる。


 どくろんが少し上へ避けたので、空いたところへ毛布を引いた。

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