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どくろと転生少女の異世界ポンコツ事件簿  作者: みぃ
第三部 御殿の見習い
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第42話 獲物の分け前

 膝の横で、クロエが体を起こした。


 テレサは水筒を獲物袋へ戻し、草の上の弓を取る。


「クロ、帰ろうか」


 木立から離れると、道の向こうに荷車が見えた。


 帯から引き綱を抜き、広げた輪へクロエの鼻先を通す。


 森で先を歩いていた足が、今はテレサの横に揃っている。


 家並みへ戻る頃には、肩に掛けた獲物袋が重く感じられた。


 持ち替えると、どくろんが空いた肩のほうへ回る。


「これ、台所で使ってもらえるかな」


『持チ帰ル前ニ、聞イテイマセン』


「うん。獲れるか分からなかったから」


 袋の底を支え直し、屋敷への道を曲がった。


――


 門を入ってから引き綱を外すと、クロエは庭の木へ向かった。


 根元で振り返り、テレサが来るまで立っている。


 木陰に弓と矢筒を下ろした。


「クロ、ここで待ってて」


 クロエが腰を下ろす。


 テレサは獲物袋を肩に残し、通用戸をくぐった。


 どくろんも続いて入り、腰の袋へ下りてくる。


 袋の縁から顔を出したのを見て、テレサは台所のほうへ声を掛けた。


「今、いい?」


「なんだ、嬢ちゃん。戻ったのか」


 マルセルが手を拭きながら出てきた。


 受け台に獲物袋を置き、中から包みを出す。


「これ、使える?」


 布を開くと、マルセルの手が止まった。


「今日のか」


「うん。森の縁で」


 マルセルが身を寄せ、包みの中を見ている。


 テレサは布の端を押さえたまま、その顔を見上げた。


「でも、クロエの分は取りたい」


「どれくらいだ」


 テレサが肉の一部を指すと、マルセルはうなずいた。


「分かった。包みごと持ってこい」


 台所へついていき、示された台へ置く。


 マルセルは小さな鉢を手元へ寄せ、包丁を取った。


 骨から外した肉が、先にその鉢へ入る。


「これでいいか」


「もう少し。今日は、よく歩いたから」


 肉がもう一切れ加わった。


 テレサはそこでうなずき、布から手を離した。


 残りを見ていたマルセルが、今度は薄く肉を切り始める。


「そんなに薄くするの?」


「今、焼く分だ」


 刃が台へ当たり、切った肉が脇へ寄せられた。


「嬢ちゃん、昼は食ったか」


「まだ」


「なら、ちょうどいい」


 マルセルは先ほどの鉢の肉を小鍋へ移し、水を注いだ。


「クロエの分も?」


「こっちは水だけで煮る。残った肉は、夕飯に使わせてもらうぞ」


 大きい塊は別の鉢へ移った。


 テレサが持ってきた包み布だけが、台の上に残る。


「私の分まで、いいの?」


「獲ってきた本人に食わせんで、どうする」


 テレサは布の汚れた面を内へ畳んだ。


 マルセルが火のほうへ向く。


 その脇には、まだ土のついた根菜の籠があった。


「これ、洗っておこうか」


「今日は休みなんだろ」


「うん」


 籠へ伸ばした手が、持ち手の手前で止まった。


「獲物を置きに来て、仕事まで拾っていくな。できたら呼ぶ」


 マルセルは鍋を火に掛けた。


 テレサは手を引き、獲物袋へ布を収める。


「じゃあ、待ってる」


 戸を出ると、木の下でクロエが立ち上がった。


 獲物袋へ鼻を寄せ、それからテレサの手を嗅ぐ。


「クロ、まだだよ。作ってもらってる」


 鼻先が手から離れ、用口へ向いた。


――


 獲物袋から水筒を出し、袋と使った布を洗った。


 弓と矢筒を居室へ戻す。


 帯のナイフも外すと、腰が軽くなる。


 どくろんが袋から出て、戸口へ先に浮いた。


 テレサも庭へ戻る。


 木陰のクロエは前脚を伸ばして伏せていた。


 その隣へ腰を下ろし、片方の脚を手に取る。


 指の間を開いてみたが、何も挟まっていない。


 掌で足裏を確かめてから、地面へ戻そうとした。


 クロエが体を横へ倒す。


 預けられた脚が、テレサの膝に載った。


「もう見たよ」


 脚を下ろしても、今度はもう片方が膝に触れる。


 テレサはそちらも取った。


 用口で足音がすると、クロエの耳が起きる。


 通用戸から出てきたのは、水桶を持った使用人だった。


 テレサもそちらを見て、また足裏へ目を戻す。


 どくろんが肩の高さへ下りてきた。


『私ノ分ハ?』


「ごはん?」


『手入レデス』


 テレサはクロエの脚をそっと下ろした。


 どくろんへ手を伸ばし、額を指でひとなでした。


「汚れてないよ」


 クロエの背へ手を置く。


 手の下で息がゆっくり上下していた。


 しばらくそのまま座っていると、土の上に伸ばした靴の先まで木陰が届いた。


 クロエの耳も、いつの間にか横へ倒れていた。


「嬢ちゃん」


 顔を上げると、通用戸のところからマルセルが手を振っている。


 クロエが先に立った。


「クロ、待ってて。持ってくるから」


 テレサは井戸端で手を洗い、用口へ向かった。


――


 受け台には、皿と小さな鉢、匙を載せた盆が置かれていた。


 焼けた肉の脇に、厚く切ったパンがある。


 小鉢の肉は細かくほぐされ、湯気が上がっていた。


「骨は抜いた。こっちは、まだ熱いぞ」


 マルセルが小鉢の縁を指した。


 テレサはうなずき、皿のほうを見る。


 肉の表面がきつね色になり、皿の底には汁が少したまっている。


「これ、庭で食べてもいい?」


「器は後で返せ。それから、クロエの分は冷ましてやれよ」


「ありがとう」


 盆を持ち上げると、パンの匂いも近づいた。


 テレサは両手で盆を支え、戸の外へ出る。


 クロエは木の下でこちらを見ていた。


 近づくにつれて、鼻先が高くなる。


「クロ、座ってて」


 盆を木の根元へ下ろし、犬舎からクロエの器と餌を持ってきた。


 いつもの分を器へ入れ、その上へ小鉢の肉を足す。


 湯気がまだ残っていたので、匙で広げた。


 クロエが器へ顔を寄せる。


「熱いから」


 少し離して置くと、鼻先もそこで止まった。


 テレサは自分の皿からパンを取る。


 一口かじった途端、空いていた腹が鳴った。


 クロエの耳がこちらへ向く。


「こっちは気にしなくていいよ」


 パンを置き、匙の先で肉を一切れ返した。


 指で熱さを確かめる。


 もう湯気は立っていなかった。


 器をクロエの前へ滑らせた。


「いいよ」


 顔が下がる。


 肉をすくう舌が動き、器の縁がかすかに鳴った。


 テレサもパンに焼いた肉を載せ、口へ運ぶ。


 噛むと汁が出た。


 もう一度噛んでから、皿に残る肉を見る。


 獲物袋に入れていたときとは、ずいぶん違っていた。


「また、持ってこようかな」


 どくろんが皿の上へ顔を向ける。


『次モ、獲レタ場合デス』


「うん。獲れたら」


 テレサはパンをちぎり、皿の汁へ浸した。


 隣ではクロエが器の底を舐めている。


 空いた小鉢へ手を伸ばしかけて、テレサは引っ込めた。


 パンには、まだ汁を吸っていないところがあった。


――


 最後のパンを食べ終えると、テレサは膝の屑を払った。


 クロエの器を洗って犬舎へ戻し、借りた皿と小鉢も洗う。


 匙と一緒に盆へ載せたところで、木の下からクロエが顔を上げた。


「クロ、器を返してくるね」


 盆を持ち上げると、どくろんも肩の横へついてくる。


 用口の受け台に盆を置いた。


「マルセルさん、ここに置くよ」


「おう」


 返事に重なって、台所から包丁の音がした。


 テレサは手を離したが、そのまま庭へは戻らなかった。


 台所へ顔を出すと、マルセルが残りの肉を切っている。


 さっき皿に載っていた肉より、ずっと厚い。


「夕飯は、煮るの?」


「ああ。根菜と一緒にな」


 切った肉が鍋へ移った。


 マルセルは籠から土の落ちた根菜を取り出す。


「さっきの肉、薄く切れば私にも焼ける?」


「切り方だけじゃない。焼けた後も、少し待つ」


 テレサは顔を上げた。


「火から下ろしてから?」


「そうだ。すぐに切ると、汁が流れちまう」


 マルセルが包丁を置き、片手で肉を切り分ける仕草をした。


 パンで拭った汁の味が、まだ口に残っている。


「焼けたら、すぐ食べてた」


「腹が減ってると、待てんよな」


 そう言って、マルセルはまた包丁を取った。


 根菜が切られ、肉の上へ落ちていく。


 テレサは戸口に寄りかかったまま、鍋が埋まるのを見ていた。


 兎の肉だけだった鉢は、もう空になっている。


「鹿なら、どうするの?」


 包丁が止まった。


「背の肉は焼きたいな。厚く切って」


 マルセルが鍋を見下ろす。


「腿なら煮てもいい。……こいつじゃ、小さいか」


 包丁を台へ置き、鍋の両側へ手を添える。


 そこから両手を外へ広げた。


「その前に、運ぶのが大変だよ」


 テレサは両腕を下げ、肩をすくめる。


「分けないと、一人では持って帰れないよ」


 マルセルの目が、鍋からテレサへ戻った。


「運べる分でいい。そっちに鍋を合わせる」


「獲ってくるとは言ってないよ」


 マルセルは口の端を上げた。


 どくろんが、テレサの肩から台所の中へ少し顔を向ける。


『獲物ハ、兎一羽ノママデス』


「分かってる。まだ鍋も替えとらん」


 マルセルは鍋の持ち手をつかみ、竈(かまど)へ運んだ。


 テレサは戸口から身を起こす。


「煮たのも、楽しみにしてる」


「夕飯には出す。ちゃんと腹を空かせてこい」


 受け台には、返した皿が重なっていた。


 テレサはその前を通り、通用戸を押し開ける。


 木の下で待っていたクロエが立った。


 どくろんも戸口を抜けてくる。


「クロ、今日はもう森には行かないよ」


 クロエが寄ってきて、空いた手に鼻先を触れさせた。


 テレサはそのまま木陰へ戻った。

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