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どくろと転生少女の異世界ポンコツ事件簿  作者: みぃ
第三部 御殿の見習い
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第41話 休みの日の道連れ

 菓子の箱が届いてから二日後、テレサは居室で弓を手に取った。


 今日は休みだった。


 着替えた服の袖を引き、手首を曲げる。


 矢筒を背負って弓を引く形を取ると、肘がどくろんの袋に当たった。


 袋を腰の脇へずらし、もう一度腕を上げる。


 今度は何も触れなかった。


「これでいいね」


 袋の口から、どくろんが少しだけ浮き上がる。


『私ノ視界ハ、狭クナリマシタ』


「歩くときは、出てていいよ」


 水筒と包み布二枚、拭き布、手拭いを入れた獲物袋を肩に掛けた。


 帯のナイフに手を添え、鞘が留まっているのを確かめる。


 廊下へ出ると、どくろんも肩の横へついてきた。


――


 犬舎の戸を開けるなり、クロエが顔を寄せた。


 いつものように手の匂いを嗅ぎ、そこで鼻先が止まる。


 テレサの手から弓へ、耳が向いた。


「クロ、今日は外へ行こう」


 クロエは戸の外へ出て、すぐに振り返った。


 戸の内側から引き綱を取る。


 輪を広げると、クロエの鼻先が先に入ってきた。


「まだ。私の支度もあるから」


 綱を持ち直す間も、尾が脚に当たっている。


 テレサはその背を一度撫で、門へ向かった。


 覆いの下にヨーゼフがいた。


「お出かけでございますか」


「クロエと、外を見てきます」


 ヨーゼフの目が、弓からクロエへ移った。


「森のほうまで?」


「はい。まだ、この辺りを見てないので」


「お気をつけて」


 テレサは頭を下げた。


「行ってきます」


 門のところまで来ると、クロエの足が少し速くなった。


 テレサが立ち止まると、すぐ横へ戻ってくる。


「クロ、ゆっくり」


 歩調が揃ってから、テレサとクロエは門を出た。


――


 朝の道には、荷を積んだ車が行き交っていた。


 車輪の音が近づくたびに、テレサはクロエを自分の側へ寄せる。


 家並みを抜けると、道の脇に畑が広がった。


 その先の木立へ近づく頃には、人の姿も減っている。


 初めて入る森だった。


 テレサは木立の端で一度立ち止まり、道の傾きと、奥へ続く獣道を見た。


 今日は奥まで入るつもりはない。


 テレサは弓を脇に抱え、クロエの引き綱を外した。


 畳んだ綱を帯へ挟む。


 クロエはすぐには走らず、テレサの横で待っていた。


「クロ、見てこよう」


 鼻先が上がった。


 クロエは風の匂いを取り、道を外れて草の縁へ寄る。


 テレサも足音を落とした。


 どくろんが肩の横を浮いている。


「どくろん、ここから喋らないで」


『了解』


 それきり、どくろんは黙った。


――


 木立へ入ると、クロエが少し前を歩いた。


 テレサは幹についた古い擦れ跡を見つけ、足元の踏まれた草へ目を移す。


 クロエが鼻を寄せたのは、その先だった。


 鼻先が落ち、また上がる。


 クロエの向きを見て、テレサも歩みを緩めた。


 湿った土に、小さな蹄の跡が残っている。


 古いものを二つ過ぎたところで、クロエが止まった。


 耳が前へ向く。


 テレサも止まる。


 枝の向こうで、何かが草を食む音がした。


 クロエがこちらを見る。


 テレサは腰を落とし、指を二本だけ前へ出した。


「クロ、回って」


 クロエが音を立てずに木の間へ消える。


 テレサは矢を一本抜いた。


 弓につがえ、木の幹へ身を寄せる。


 しばらくして、左手の低木がわずかに揺れた。


 クロエの黒い耳が一度だけ見え、また消える。


 その反対側から、鹿が顔を出した。


 まだこちらには気づいていない。


 テレサは弓を上げた。


 弦を引く。


 鹿が一歩進む。


 その後ろで、もう一つ枝が鳴った。


 テレサは引いた弦を戻した。


 鹿の後ろから、小さな頭が出てくる。


 小鹿が追いつき、先の鹿の腹へ鼻を寄せた。


 左の低木の下には、伏せたクロエの前脚が見える。


「クロ、戻って」


 黒い体が木々の間を抜けて戻ってきた。


 テレサは矢を矢筒へ戻した。


 小鹿がこちらへ顔を向ける。


 親鹿も気づき、二頭は木立の奥へ駆けていった。


 枝の音が遠ざかるまで、クロエはテレサの横にいた。


「この親子は、追わないよ」


 クロエの耳が動いた。


 テレサはその頭を一度撫でた。


「もう少しだけ見よう」


――


 来た道から離れすぎないよう、森の縁に沿って進む。


 今度はクロエが早く止まった。


 鼻先が右へ向く。


 テレサがそちらを見ると、土の盛り上がった向こうに茶色い背が見えた。


 野兎だった。


 耳だけが草の上に出ている。


 テレサは矢をつがえた。


 クロエは動かない。


 野兎が草を噛み、顔を上げる。


 風向きが変わった。


 鼻が動く。


 次の瞬間、野兎が跳ねた。


 テレサの指が離れる。


 矢が草の間を抜けた。


 短い音がして、野兎の姿が倒れる。


 クロエが走り出した。


「クロ、そこで待って」


 呼ぶと、速度が落ちる。


 獲物の手前で止まり、テレサを振り返った。


 テレサは弓を下げて近づく。


 弓を木に立てかけ、野兎を持ち上げた。


「よし」


 クロエの尾が一度、草を打った。


 テレサはしゃがみ、その首の横を撫でる。


「久しぶり」


 クロエが鼻先を腕へ押しつけた。


「クロ、少し待ってて」


 木の根元に包み布を一枚広げ、野兎から矢を抜いた。


 ナイフで処理を済ませ、持ち帰る分を布で包む。


 残りはもう一枚の包み布に包み、道から離れた柔らかい土を深く掘って埋めた。


 土を戻す間、クロエは木の根元で耳を動かしていた。


 拭き布で矢と刃を拭い、汚れた面を内側へ折って帯に挟む。


 手を洗う分だけ水筒から水を落とす。


 手拭いで水気を取り、包んだ獲物を袋へ収めた。


 水筒も栓を締めて袋へ戻す。


 ナイフを鞘へ、矢を矢筒へ戻す。


 肩の横では、どくろんが黙ったまま浮いている。


「どくろん、もう話していいよ」


『発声制限、解除』


 どくろんがテレサの髪の横へ寄った。


『頭部ニ、枯葉ガ一枚』


 髪に手をやると、指先で乾いた音がした。


「いつから?」


『鹿ヲ待ッテイル間カラ』


 葉をつまみ出す。


「それは、言ってもよかったのに」


『発声、禁止サレテイマシタ』


 テレサはどくろんを見てから、もう一度髪を払った。


 獲物袋を肩へ掛け、弓を取り上げる。


 クロエが先に歩き出しかける。


「クロ、今日はここまで。奥はまた今度」


 足が止まった。


 顔はこちらを向いても、耳は木立の奥へ向いている。


「帰ったら、ごはん増やそう」


 尾が大きく振れた。


――


 森を出たところで、テレサは弓を草の上へ寝かせた。


 クロエが隣へ座る。


 テレサも腰を下ろした。


 獲物袋から水筒を出し、袋は膝の横に置く。


 水筒の水を手のひらへ少しずつ落とした。


 クロエの鼻先が近づいてくる。


「クロ、まだ」


 待っていた舌が水をすくった。


 何度か注ぎ足してから、水筒に栓をして脇へ置く。


 クロエは顔を上げ、水のついた鼻をその手へ押しつけた。


「自分で拭かないで」


 手を引いても、鼻先がついてくる。


 テレサは顎の下へ指を入れた。


 クロエの頭が少し上を向く。


 後ろ脚が崩れ、腰がテレサの膝へ寄った。


 どくろんは肩の横へ浮いたまま、こちらを見ている。


「次は、もう少し奥も見ようか」


 クロエの尾が、草の上を一度叩いた。


 テレサはもう一度、クロエの耳の後ろを掻いた。

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