幕間 料理人の口利き
御殿へ戻ったマルセルは、用口の受け台へ籠を下ろした。
葉物の束が傾き、端から一枚はみ出す。
マルセルは葉を戻してから、グレーテへ顔を向けた。
「女中の募集、まだ決まってないな」
「ええ。どなたか心当たりが?」
「街道で一緒だった嬢ちゃんだ。さっき広場で会ってな。住み込みの仕事を探してると言うから、ここの話をした」
用口を通りかけたヨーゼフが足を止めた。
「お名前は」
「テレサ。来るかはまだ分からん。少し考えるそうだ」
ヨーゼフは戸口を空け、受け台の脇へ寄る。
「旅でご一緒した方でございますか」
「ああ。俺が魔獣に食われずに済んだのは、その嬢ちゃんのおかげだ」
マルセルは籠の持ち手から指を離した。
「婆さんが道の脇で動けなくなってな。俺は前へ出たが、持ってたのは砂糖の箱だけだ」
「箱で防ごうとなさったのですか」
「ほかに持ってなかった」
マルセルは両手を広げた。
箱の向こうに見えた口には、青白い火花が散っていた。
今なら、あんな板ではどうにもならないと思う。
「あいつが跳んだところを、嬢ちゃんが射た。顎の下に一本だ。俺の前で落ちたよ」
ヨーゼフの目が、マルセルの顔へ戻った。
マルセルは手を下ろした。
「俺はまだ、箱を抱えて立ってた」
グレーテは黙って続きを待っている。
「礼を言ったら、仕事なので、だとさ。護衛を頼まれて乗ってたんだと。俺だけじゃない。あの馬車の客は、みんな助けられた」
「奉公のご経験は」
グレーテの問いに、マルセルは首を振った。
「そこまでは聞いてない。女中の仕事を自分にできるか、気にしてたよ」
「それは、ご本人に確かめます」
「頼む。俺が女中の腕まで請け合うわけにはいかん」
マルセルは籠の持ち手を倒した。
「だが、人柄なら俺が請け合う。来たら、話を聞いてやってくれ」
「お越しになりましたら、お話を伺いましょう」
ヨーゼフはそう答えた。
「それでいい」
マルセルは葉物の束を取り上げる。
いつ来るとも、来るとも言っていない。
まずは今日の飯だった。
マルセルは葉先を確かめた。
まだ張りがある。
昼に使う分を選び、台所へ運んだ。




