幕間 歪み
薬草を刻む音が、止まった。
……触媒は、誰が使う物なのか。
ヴァルド石の場所を、ご存じですよね。
前も、最初に「誰から」と聞きましたよね。
あの子は、どこまで知っている。
どこまで。
分からない。
分からない。
マティアスは机の上の書類を揃える。
一枚。
また一枚。
端を合わせる。
ほんの僅かなずれが気になる。
揃え直す。
指先が止まらない。
……あの子は、あの日の夕暮れ、外にいた。
トーマに追われて。
報告書に、そう書いてあった。
生きて戻ったあの子が話せば。
地震の事故は、事故でなくなる。
最初から、そうだったのだ。
……トーマの時は、決断が遅れた。
まだ大丈夫だと思った。
証拠はない。
時間はある。
そう思った。
だから失敗した。
同じ失敗は繰り返さない。
守らなければならない。
古文書を読み、地形を歩き、何年も答えを探した。
知りたいという始まりまで、嘘だったわけではない。
……守らなければならない。
研究を。
私の研究を。
あと少しなんだ。
あと少しで完成する。
ここで終わらせるわけにはいかない。
止まるものか。
止められるものか。
テレサは止まらない。
あれは必ず辿り着く。
優秀だから。
だから。
……一人、増えるだけだ。
研究は残る。
守らなければならない。
私の研究を。
私だけの研究を。
マティアスはゆっくりと立ち上がった。
もう、迷う理由はなかった。




