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どくろと転生少女の異世界ポンコツ事件簿  作者: みぃ
第一部 アルワール村編
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第20話 三つの質問

 翌朝。


 テレサは村外れの道を歩いていた。


 向かう先は、マティアスの工房。


 昨日、紙の上でやることは決めた。


 証拠は、うちには取れへん。


 なら、先生に動いてもらうしかない。


 犯人やないなら、何も起こらへん。それだけのことや。


(……そうであってほしい、いうんが本音やけどな。)


『本日ノ行動目的ヲ確認』


 袋の中で、どくろんが小さく光る。


「揺らすだけ。深追いはせえへん」


『了解。観測ニ徹シマス』


――


 研究室の扉を叩く。


「どうぞ」


 中ではマティアスが薬草を刻んでいた。


「ああ、テレサさん」


「こんにちは」


「今日はどうしました?」


 相変わらず柔らかな笑顔だった。


 その笑顔を見ても、昨日まで感じていた安心感は戻ってこない。


(……笑っとる。)


(せやけど、見なあかん。)


「先生」


「前に聞きそびれたことがあるんです」


「ええ」


「リュミナ触媒って」


 一拍置く。


「誰が使う物なんですか?」


 包丁の音が止まった。


 本当に、一瞬だけ。


 けれど止まった。


「研究者ですよ」


 穏やかな声。


「魔道具や錬金術の研究では必要になります。私も、発掘に使うゴーレムをあれで動かしていました」


「今は?」


「手に入りませんから。ゴーレムも止まったままです」


 困ったように、少し笑う。


「そうですよね」


 あっさり引き下がる。


 マティアスもまた、何事もなかったように薬草を刻み始めた。


(触媒もゴーレムも、隠さへん。)


(そらそうや。先生の発掘は、村の誰でも知っとる。)


(今のは普通。まだ普通や。)


 テレサは視線を机の上へ落とした。


 そして。


「あと」


「先生、この村の近くでヴァルド石が採れる場所、ご存じですよね」


 今度は包丁は止まらなかった。


 代わりに。


 手だけが、ほんの少し遅れた。


「……どうしてそう思うんです?」


(やっぱり。)


 まただ。


 否定しない。


 最初に理由を聞く。


 知らないなら。


「そんな場所はありませんよ」


 そう返せば済む話だ。


 なのに。


 まず、


 どうしてそう思うんです?


 だった。


「先生」


 テレサは首を傾げる。


「前も」


「最初に『誰から聞いたんですか』って聞きましたよね」


 静寂。


 診療所の中に薬草の香りだけが漂う。


 マティアスは微笑んだままだった。


「それが何か?」


 優しい口調。


 だが。


(違う。)


(今欲しい返事はそれやない。)


(否定や。)


(否定せえへん。)


 テレサは小さく笑った。


「いえ」


「何でもありません」


「そうですか」


 それ以上は聞かなかった。


 これ以上は要らない。


 気付いている。


 それが伝われば、今日は足りる。


 そう決めて、ここへ来た。


――


 研究室を出る。


 扉が閉まる音。


 外の光が、一瞬だけ白く目を刺した。工房の中が、思っていたより薄暗かったらしい。


 歩きながら、どくろんが小さく点滅する。


『評価』


『対象:マティアス』


『危険度上昇』


「分かっとる」


 テレサは空を見上げた。


「せやけど」


「ここで引いたら、一生分からへん」


『肯定』


「あとは、先生の番や」


『行動予測。逃走、隠蔽、接触』


「どれでも、動いたら答えや」


『最悪分岐ハ襲撃』


「分かっとる」


「犯人やないなら、何も起きひん。……そっちに賭けたいけどな」


――


 研究室。


 扉が閉まる。


 マティアスは窓辺まで歩き、遠ざかる小さな背中を見送った。


 笑みが消える。


「……予定より早いですね」


 ぽつりと、それだけ呟く。


 再び穏やかな笑顔を浮かべると、薬草を刻む音が静かな部屋へ戻っていった。

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