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どくろと転生少女の異世界ポンコツ事件簿  作者: みぃ
第一部 アルワール村編
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第16話 一本の線と、外れた一点

 小屋へ戻ったテレサは、弓を壁へ立て掛けると、そのまま椅子へ腰を下ろした。


 歩き通しの一日だった。腰を下ろすと、足の裏がじんと熱を持つ。


 クロエが寄ってきて、膝へ顎を載せる。耳の後ろを掻いてやりながら、種火で湯を沸かした。


 白湯を一口。それから、机に肘をつく。


「……分からん」


 ぽつりと漏れた声に、どくろんが静かに応じる。


『情報整理ヲ推奨』


「せやな」


 考える前に並べる。


 それが一番間違えにくい。


 前世で障害の切り分けをした時も、結局はこれだった。慌てて原因へ飛びつくと、大抵、外す。


「事実だけ」


『了解』


 テレサは指を一本立てた。


「マティアス先生は遺跡を探しとる」


『一致』


「そのためにゴーレムを使っとる」


『一致』


「ゴーレムにはヴァルド石とリュミナ触媒が要る」


「リュミナ触媒は、ヴァルド石から魔力を取り出すために使う」


『一致。古代名デハ、旧型エーテル鉱ト変換媒質γ』


「……昔は、そんな名前やったんやな」


『是。価値評価モ別』


「でも、この国じゃ、その技術自体があんまり使われてへん」


『一致』


「正規に出回るヴァルド石も少ない。勝手に掘るんは違法」


『一致』


「それで、遺跡の近くには……」


 テレサは言葉を止めた。


『保留』


「せやな。今はまだ、こっちとつながったとは決められへん」


『一致』


「シリルはそのリュミナ触媒を売っとった」


『一致』


「途中で供給が止まった」


『一致』


「先生は困った」


『一致』


「ここまでは普通や」


『整合性アリ』


 学者が遺跡を調査する。


 必要な資材を商人から買う。


 仕入れが止まれば調査が止まる。


 ここまでは何も事件ではない。


 テレサは二本目の指を立てた。


「先生はトーマさんへ相談した」


『一致』


「トーマさんは帳簿を確認した」


『一致』


「帳簿には、シリルからリュミナ触媒を買っとることも載っとる」


『一致』


「つまり」


「帳簿で分かることは、もう分かっとる」


『一致』


「せやから」


「トーマさんが聞きに行ったんは」


 一拍置く。


「帳簿だけでは分からんこと」


『一致』


「リュミナ触媒の供給が止まった理由」


『一致』


「それと」


「シリルが、どこからリュミナ触媒を調達しとったんか」


『一致』


 そこは帳簿には書けない。


 シリルの商売の話だからだ。


 テレサは目を閉じる。


 あの時のシリルの受け答えを思い返す。


「入手できなくなりました」


「私も困っているのですよ」


「それ以上は分かりません」


 答えている。


 だが。


 全部ではない。


「嘘……ではない」


『一致』


「でも」


「全部は話してへん」


『一致』


「トーマさんも、それは分かっとった」


 だから怒った。


 監査として来たのに。


 必要な情報だけが返ってこない。


 あの平手打ちは褒められたものではない。


 だが。


 腹が立つ理由は理解できる。


「ここまでも」


「一応つながる」


『一致』


 供給停止。


 相談。


 監査。


 確認。


 口論。


 平手打ち。


 一本の線になっている。


 問題は。


 その先だ。


「トーマさんが死んだ」


 その一言だけが、線から外れていた。


 窓の外は、もう暗い。


 冷めた白湯と、クロエの寝息だけが、部屋に残った。


 部屋に沈黙が落ちる。


 薪が小さく爆ぜた。


 テレサはシリルとの会話をもう一度思い返す。


 焦らない。


 怒らない。


 必要以上に言い訳もしない。


 こちらが何を知っているのかだけを測っていた。


「……変や」


『何ガ』


「あいつ」


 犯人なら。


 もっと口を閉ざす。


 もっと証拠を隠す。


 もっと追い返そうとする。


 そう思っていた。


 だが、シリルは違った。


 答える。


 ただし、答える範囲は自分で決める。


 そして。


 こちらの反応を見ている。


「うちも」


「試された気ぃする」


『可能性アリ』


「トーマさんも」


 同じだったのではないか。


 答えを与えることより。


 怒るか。


 納得するか。


 疑うか。


 その反応を見ていた。


「……何を見たかった」


 そこだけが分からない。


 だから事件全体が、一つにつながらない。


 テレサは深く息を吐いた。


「まだ」


『情報不足』


「……せやな」


 今は結論を出す段階じゃない。


 分からないことを、分からないまま置いておく。


 それも推理だ。

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