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どくろと転生少女の異世界ポンコツ事件簿  作者: みぃ
第一部 アルワール村編
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13/31

第11話 殺された側から辿る

 翌日、テレサはいつもより遅く家を出た。


 弓を背負い、腰には小刀。


 格好だけなら、狩りへ向かう時と変わらない。


 朝の村は、槌の音より先に竈の煙が働く。パンの焼ける匂いと湿った灰の匂いが、道の低いところを流れていた。


 実際、やることも狩りと変わらない、と思っている。


 跡を見つけ、辿り、居場所を絞る。相手が獣か、人の残した時間かの違いだけだ。


『本日ノ調査対象』


 肩の横を飛ぶどくろんが尋ねた。


「トーマさんの足取り」


『対象変更』


「変更やない。順番変えただけ」


 テレサは村の北へ続く道を見た。


 北の道は、トーマの家へ続く。役場と、家と、森の境。人の一日は、道の上に残る。


 昨日一日、シリルについて聞き回った。


 村での評判は良い。


 仕事は堅実。


 恨まれるような揉め事もない。


 けれど、それで疑いが消えたわけではない。


 人当たりが良いことと、人を殺さないことは別だ。


 むしろ、あの男は笑ったまま人の反応を測り、「殺す必要があるか」を口にした。


 問題は、証拠がないことだった。


「シリルさん側を調べても、村の中からは何も出んかった」


『是』


「なら、逆から辿る」


『逆』


「殺された側」


 トーマは何を知っていたのか。


 誰と話し、何を調べ、なぜシリルを問い詰めたのか。


 あの日の言い争いで聞こえたのは、仕入先と供給停止の話だけだった。


 何が入らなくなったのかは分からない。


 なぜトーマがそこまで怒ったのかも分からない。


 分からないことが多すぎる。


 ただ、その分からないことの中心に、トーマがいた。


『被害者側カラノ情報取得』


「そう」


『合理的』


「珍しく素直やな」


『通常応答』


「その言い方やと、普段が素直やないみたいやで」


『否定シマセン』


「否定せえや」


 二人は家を離れた。


 北へ向かう道は、朝日を右から受ける。露の残る草が光り、道の先で、役場の屋根が鈍く光っていた。


 村の北寄りに、トーマの家があった。


 自宅の一室が執務室になっている、と以前から知ってはいた。


 扉は開いていた。


 中から、紙をさばく音がする。


「……すみません」


 声をかけると、中で人が跳ねた。


「ひゃっ」


 机の前にいたのは、エマ・フェルドだった。


 十八歳くらいの、若手の役所の人。


 トーマの後輩、だったはずだ。


 耳に筆記具を挟んだまま、別の束を抱えている。


「あ、テレサちゃん……! ごめんなさい、びっくりして」


 柔らかな丁寧語だった。


 慌てた拍子に耳の筆記具が滑り落ち、エマはそれを二度掴み損ね、筆記具は宙を舞っていた。


「大丈夫です」


「よかった……。どうぞ。いま書類、整理してて」


 室内は地震のあとがまだ残っている。


 床に寄せられた紙。


 空いた棚。


 人が急にいなくなったあとの、忙しさと空白が同居していた。


 奥の机は、誰も座っていないのに、片付いていなかった。


 書きかけの帳面。立てたままのペン。端へ寄せられた、洗われていない湯呑み。


 トーマの席だ、と、聞かなくても分かった。エマはその机には触れず、手前の小机で作業している。


 どくろんは肩の横で静かに浮いている。


 エマは一度だけそちらを見て、目を丸くした。


「使い魔……? 珍しいね」


「ええ」


 それ以上は説明しない。


 エマも深くは聞かない。


「トーマさんのこと、聞きに来ました」


「……うん」


 エマは机の端へ、抱えていた束を置く。


 置き場所を誤り、別の束が滑る。


「あっ」


 慌てて押さえる。


「ごめんね。最近、こういうの多くて」


「引き継ぎ、してるんですか」


「うん。普通の役所仕事と、文書の整理。先輩の……監査のほうは、私も詳しくは知らなくて」


 知らない、と言い切った。


 嘘をついているようには見えなかった。


「先輩は、亡くなる前、何を調べてましたか」


「触媒が届かなくなった話、って聞いた程度。仕入先の確認に行った、とは。中身までは」


「シリルさんのところ」


「……たぶん」


 エマは視線を落とす。


「私も、もっと聞いておけばよかったって思う。でも、監査は先輩の担当で」


 責めているのではない。


 自分の位置を、はっきりさせているだけだ。


「ここに、先輩のメモとか、調査の紙は」


「探してる」


 エマは棚を指さした。


「住民台帳とか、届出とか、普通の役所のものは大体ある。でも、マティアス先生の研究の監査関係だけ、まとまって見当たらなくて」


 空気が一瞬、変わる。


 エマ自身は、その意味の大きさに気づいていない顔だった。ただ「見当たらない」ことを、事実として困っている。


 決め手、ではない。


 地震のあとで散らばったのかもしれない。


 誰かが運んだのかもしれない。


 ただ、「無い」という事実だけは残った。


「意味、分かりますか」


「分からない」


 エマは首を振る。


「無い、ってことしか。犯人とか、そういうのは……私、分からなくて」


「それでいいです」


 テレサは短く言う。


 意味づけは、自分の側でやる。


「あと、先輩が最後に誰と会ってたかとか」


「朝は、家にいたはずって聞いた。でも私はその場にいなくて。地震の夜も、自宅にいたし」


「そう、ですか」


「テレサちゃん」


 エマが、少しだけ声を落とす。


「無理しないでね。一人で抱え込まないで。……何か手伝えるなら、言って」


 探偵扱いではない。


 年上の、少し自信のない職員の、できる範囲の言葉だった。


 立ち上がろうとしたところで、エマが慌てて手を上げる。


「あ、……ひとつだけ、お願い、してもいいかな」


「はい」


「地震のあと、村の外縁の道と、外れの家への連絡がまだ終わっていなくて。書類は持っていけるんですけど……森の方は、私、あんまり慣れていなくて」


 視線が泳ぐ。


「テレサちゃんは狩人だから、道が分かるでしょう。後日でいいから、案内、頼めないかな。監査とか、そういうのではなくて。普通の確認だけ」


「分かりました。日を決めてくれたら」


「本当に? ありがとう……! 書類が一段落したら、声をかけるね」


 約束は、先の話として置かれた。


「ええ」


 外へ出る。


 扉を閉めたあと、どくろんが小さく言う。


『情報』


「うん」


『後任、確認』


「いや。元から普通の役所の人や。今は執務室の文書整理も継いでる、っちゅうだけや」


『是。担当ノ継続。監査詳細、非所持』


「せや」


『監査関係資料、欠失ノ可能性』


「盗られた、とはまだ言えへん。『無い』いうだけなら、弱い兆候止まりや」


「是。記録。意味付け、保留」


「それでええ」


 テレサは一度、執務室の屋根を見上げた。


 殺された側から辿る、最初の接点だ。


 村の道へ歩き出す。


 後ろに、誰かの視線がある気がした。


 偶然かもしれない。

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