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打ち合わせを始めて一週間。やるべきことは多くて煩雑で、フリッツ様に緊張しているどころではなくなった。慣れた、ともいう。
今日は、会場を押さえたとのことで、珍しく売店の外に出ていた。
「こちらが当日使う会場だ」
「改めて見ると広いですね……」
学園の大ホールなんて、入学式くらいでしか来たことがない。高い天井に磨かれた床、シャンデリア。圧倒されていると、隣から声が落ちてくる。
「机を何台か運んできて、食べ物が置けるようにする予定だ」
「いいですね」
「あとはクロスだが─」
「濃い色が良いかも」
思わずぽつりとこぼれる。不敬だったかしら、と思ってフリッツ様を見るが特に咎められなかった。
「打ち合わせ中は、お互い話しやすいように話そう」
「良いんですか?」
「畏まってアイディアがでない方が問題だ。敬語もなしでも構わない」
「…ありがとう、話しやすいようにさせてもらいますね」
正直畏れ多いが、公爵家の言葉に逆らえるわけもなく。意識して敬語をはずすことにした。こっちは内心冷や汗ものだというのに、フリッツ様は気にした様子もなく笑顔を浮かべていた。
「それで、クロスが濃い色が良い理由は?」
「この床、光を反射しすぎるの。クロスも淡い色だと落ち着かない気がするわ」
「なるほど」
「あと、お花は高さを出しすぎない方が……会話の邪魔になってしまうし」
優しい相槌を返してくれるので、頭でパーティーの予算と経費を計算しながらアイディア出しをどんどんしていく。言いながら歩き回っていると、いつの間にか夢中になっていた。
「学園の花を使えば経費を抑えられて、保護者の方にもより学園を感じてもらえるかも」
「ふむ?」
「学園特有のアカデミーローズだと良いけれど…確か時期ではなくても、温室に育ててあるはず」
「それなら全てのテーブルに飾れそうだね」
「周りはベイビーズブレス?ミスカンサスで動きを出しても可愛いし、デルフィニウム…は、時期じゃないわね」
そこまで言ってから、はっとする。喋りすぎた。
恐る恐る振り返ると、フリッツ様はなぜか少し驚いたような顔をしていた。
「……フリッツ様?」
「いや…君は思っていたより、よく喋るんだなと」
思っていたよりとは?でも気にしていても始まらない、次のところに目を向ける。
このパーティーは、学園の保護者交流という名目だ。学園を感じられるように、授業の展示や売店ブースも設ける、ということだったが。
「売店のブースを置くなら窓際が良いかも」
「窓際に」
「ええ。保護者の方って、学生が普段どんなところにいるのか気になると思うの。学園の庭が見えるとより身近に感じられると思いません?」
「ああ、そうだな。…本当に、君に任せて正解だった」
その声音が妙に優しくて、少しだけ落ち着かなくなった。
慌てて授業展示コーナーに頭を切り替える。
「政務科はどんな展示を?」
「主にレポートになるかな。納税率から見る各地の財政状況予想と実態とか、地域別予算額の再考察とか。大して面白味の無いものだよ。君の魔術科は色んなものができそうで良いね」
「ええ、張り切ってたわ。特に第一王子殿下」
「またあの人は…」
本当に頭の痛そうな顔だ。第三王子派閥とはいえ、有能なフリッツ様は第一王子殿下にもよく呼び出されている。とにかく忙しい人なのに、こんなに打ち合わせに参加してもらえるんだから、驚きだ。
「最近、授業はどうなんだ?」
「今は生活魔術の応用です。温度調整とか」
「君は得意そうだ」
「そうですね、細かい調整の方が好き」
「らしいな」
「どういう意味かしら?」
「君は、人が快適になるように動くのが好きだろう」
さらりと言われ、思わず言葉に詰まった。そんな風に考えたことはなかった。けれど否定もできなくて、曖昧に笑う。
「……商店育ちだもの」
「それだけじゃないと思うけどね」
その返事は妙に静かで、なぜだか胸に残った。また頭が乙女思考にいきそうで、慌てて口を開く。
「湿度と温度で客層と来客数が全然変わるって知ってますか?暑くて湿度が高いとそもそもお店に来ないけど、寒くて湿度が低いと女性陣が中々来ない。商品ごとに適した温度と湿度もあるので、区切ってそれぞれ調整したりしてるのよ」
「そこまでするのか?それなりの売り上げはあるだろうに」
「当然。うちは商店、売れれば売れるほど嬉しいの」
そうか、と呟いてフリッツ様は手元の資料を見つめたまま、しばらく押し黙ってしまった。
何か変なことを言ってしまっただろうか。少し謙遜も足しておく。
「強欲、なんて言われるけどね」
「いや、商人としては当然だろう…本当に、予想以上に君は商人なんだな」
しみじみとフリッツ様が言うものだから。褒め言葉として受け取ることにした。




