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メニュー009 シーフードヌードル①

 フィリアが目を覚ました時、窓の外は既に明るかった。


 いや、明るいどころではない。


 カーテンの隙間から差し込む光は強く、どう考えても朝ではなかった。


 フィリアは、ゆっくりと身体を起こす。


 柔らかな布団が身体から離れ、名残惜しさを感じさせた。


 部屋の窓から外を眺め、太陽の位置を確認するフィリア。


 完全に昼だ。


 フィリアは呆然とする。


 寝過ぎた。


 しかし不思議と罪悪感はなかった。


 身体は驚くほど軽く、頭も冴えている。


 気分も晴れやかだ。


 地下牢にいた頃は、まともに眠ることなど出来なかった。


 いつ処刑されるか分からない恐怖が常につきまとい、夜中に何度も目を覚ましていた。


 石床は硬く冷たい。


 毛布は薄く、夜は特に寒かった。


 寝不足だったのは当然だろう。


 フィリアは大きく伸びをした。


 身体の節々が心地良く鳴る。


 やはり人間は、睡眠が一番大事だ。


 たった一晩ぐっすり眠っただけなのに、牢屋で過ごした日々が、遠い昔の出来事のように感じられる。


 昨日まで絶望の底にいたはずなのに、今は不思議と前向きな気持ちになっていた。


 フィリアは、身支度を整えて、部屋を出ることにした。


 せっかくなので宿屋を探索しようと思ったのだ。


 ただし『えれべーた』には要注意だ。


 あの危険な『部屋』には、二度と近付いてはならない。


 あれは、人を騙す罠だ。


 フィリアは、昨日の恐怖を思い出しながら迷わず階段へ向かった。


 数分後、1階へ到着したフィリアは、ロビーを見回した。


 すると見覚えのある看板を発見する。


 『コンビニ』と書かれた看板。


 以前、『ツナマヨおにぎり』を買ったコンビニが、宿屋の中に存在していた。


 フィリアは目を丸くした。


 どうして宿屋の中に商店があるのか。


 そんな話は聞いた事がない。


 帝国では、商店は商店街にあり、宿屋は宿屋として存在している。


 それが普通だ。


 しかし、この国では違うらしい。


 宿屋の中に、買い物出来る商店が存在する。


 きっと他にも『未知の施設』があるに違いない。


 これは、宿屋の探索が楽しみだ。


 そしてフィリアは、歩き続ける。


 すると次に、『大浴場』と書かれた案内板を見つけた。


 「だいよくじょう……大きい浴場?」


 部屋の浴槽も、十分大きかった。


 さらに大きな浴場とは、一体どんな浴槽なのだろう。


 気になったフィリアは、入口から少しだけ中を覗いてみた。


 「こ、これは……」


 あまりにも広い浴槽だった。


 浴槽というより、もはや『池』だ。


 そして、大勢の人々が浸かっている。


 1人や2人ではない。


 10人以上いる。


 皆が同じ浴槽に入っているのだ。


 フィリアの思考が停止する。


 なぜ?


 なぜ他人と一緒に風呂に入る必要があるのか。


 浴槽は1人で使うものではないのか。


 異界人の考えることは理解が難しい


 フィリアは静かに後退した。


 見なかったことにしよう。


 そう結論付けた。


 その後、フィリアは別の施設を発見した。


 『コインランドリー』と書かれている。


 ガラス窓の向こうで服が回転していた。


 クルクル回っている。


 延々と回っている。


 フィリアは首を傾げた。


 なぜ、大事な服を回しているのだろう。


 意味が分からない。


 服が傷つくではないか。


 はっ!?


 フィリアは、全て理解した。


 これも、あの詐欺師 (受付の女性)の仕業か!?


 きっとそうに違いない。


 フィリアは、逃げるようにコインランドリーを後にした。


 そして今度は、『お土産』と書かれた店を発見した。


 店内には様々な商品が並んでいる。


 菓子、玩具、置物、小物。


 先程のコンビニとは、扱う商品が少し違うように見える。


 そしてフィリアの視線が一点で止まった。


 それは、見覚えのある『お菓子』だった。



 【栗まんじゅう】だ。



 フィリアの目が輝いた。


 昨日食べたあの『栗まんじゅう』ではないか。


 人生で最も衝撃を受けたお菓子。


 抹茶との組み合わせによって異界の食文化の恐ろしさを教えてくれた存在。


 その栗まんじゅうが大量に並んでいる。


 10個入り、20個入り、30個入り。


 夢のような光景だった。


 フィリアは迷わなかった。


 気付けば、30個入りを3箱抱えていた。


 当然、『抹茶』も購入した。


 これがないと始まらない。


 支払いを済ませたフィリアは、上機嫌で部屋へ向かった。


 そして廊下を歩いていたその時―――。

 


 「イラッシャイマセ」



 どこからともなく声が響いた。


 フィリアは飛び上がると、慌てて周囲を見回す。


 しかし廊下には、誰もいない。


 だが、今確かに声が聞こえた。


 そして再び―――。


 「イラッシャイマセ」


 「ッ!?」


 喋っていたのは目の前の『箱?』であった。


 フィリアと【自動販売機】の初めての出会い。


 フィリアは、両手に栗まんじゅうと抹茶を持ちながら立ち尽くしていた。




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