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メニュー010 シーフードヌードル②

 フィリアの視線の先には、喋る『謎の箱』。


 頭の中は、混乱の極みに達している。


 今、確かに聞こえた。


 目の前の箱が「イラッシャイマセ」と喋ったのだ。


 フィリアは、慎重に一歩近付く。


 箱は、白く光沢があり、正面には透明な板が付いている。


 板の向こうには、色とりどりの商品が並んでいた。


 飲み物、菓子、見たこともない品々。


 しかし問題は、『そこ』ではない。


 箱が『喋った』ことだ。


 フィリアは、箱の周囲をぐるりと回る。


 誰もいない。


 隠れている人間は、いない。


 謎の箱だけが堂々と立っている。


 フィリアは、意を決して話しかけてみる事にした。


 「は、初めまして。フィリア・アンダルシアと申します」


 すると―――。


 「イラッシャイマセ」


 また喋った。


 やはりこの箱が、喋っているのだ。


 フィリアは、箱をじっと見つめている。


 その時だった。


 「何かお困りですか?」


 背後から『聞き覚えのある声』が聞こえた。


 フィリアが振り返ると、そこには受付の女性が立っていた。


 闇ギルドに所属している詐欺師の女だ。


 フィリアは、即座に警戒態勢へ移行する。


 危険人物だ。


 何しろ、あの恐ろしい『浮遊式拷問部屋』―――『えれべーた』へ誘導した張本人なのだから。


 フィリアは、半歩下がった。


 受付の女性は、不思議そうに首を傾げる。


 「お客様?どうかなさいましたか?」


 「い、いえ……」


 フィリアは誤魔化した。


 闇ギルドの詐欺師だという証拠はない。


 だが絶対に怪しい。


 すると受付の女性は、謎の箱へ視線を向けた。


 「ああ、もしかして『自動販売機』でお困りでしたか?」


 「じどう……はんばいき?」


 「商品を販売する機械です」


 フィリアは目を見開いた。


 機械が商品を販売する?


 つまり『商人』ということだ。


 帝国にも『ゴーレム研究』は存在する。


 しかしそれは、魔物を討伐するための研究だった。


 『商売をするゴーレム』など聞いたことがない。


 「なぜ人がやらないのですか?」


 フィリアは、思わずそう尋ねた。


 受付の女性は少し考えた後、笑顔で答えた。


 「便利だからですね」


 フィリアには、理解出来なかった。


 この国は本当に不思議だ。


 人が出来る仕事を、わざわざゴーレムにやらせている。


 労力の使い方が、全く理解出来ない。


 受付の女性は、自動販売機を指差した。


 「せっかくですので使ってみますか?」


 フィリアは少し悩んだが、好奇心が勝った。


 異界の技術を学ぶのも薬師として重要だ。


 きっと重要だ……たぶん。


 自動販売機の商品を眺めるフィリア。


 様々な飲食物が並んでいる。


 その中で一際目を引いたのは、『橙色の液体』だった。


 「これは何ですか?」


 「オレンジジュースです」


 果実をしぼった飲み物らしい。


 フィリアは、興味が湧いた。


 そしてもう一つ。


 円柱状の側面に『海老や貝の絵』が描かれた奇妙な商品を見つけた。


 「こちらは?」


 「シーフードヌードルですね」


 どうやら食べ物らしい。


 フィリアは、両方購入することにした。


 お金を入れて、ボタンを押す。


 ガコン。


 オレンジジュースが落ちてきた。


 「アリガトウゴザイマシタ」と、お礼を伝えるゴーレム。


 フィリアは感動した。


 凄い。


 このゴーレムは、客への感謝も忘れない。


 なんと優秀なゴーレムだろう。


 帝国のゴーレム研究者達が見たら卒倒するに違いない。


 しかし驚きは、ここからであった。


 受付の女性は、フィリアをシーフードヌードルの機械へ案内した。


 そして『熱湯』と書かれたボタンを押す。


 すると、機械の中でシーフードヌードルの蓋が開き、お湯を注ぎ始めた。


 フィリアは絶句する。



 ゴーレムが、【料理】を始めたのだ。



 フィリアは、先程と『全く同じ質問』をぶつけた。


 「なぜ人がやらないのですか?」


 受付の女性は、笑顔で『同じ返答』をした。


 「便利だからですね」


 そして受付の女性は「3分待って下さいね」と言っている。


 3分後―――。


 料理が完成した。


 速い、速すぎる。


 どれたけ優秀なゴーレムなのか。


 ふわりと白い湯気が立ちのぼり、濃厚な魚介の香りが鼻腔を満たした。 


 「割りばしとフォークは、ご自由にお使い下さい」


 そして受付の女性は、笑顔で去って行った。


 フィリアは部屋へ戻ると、机の上に『シーフードヌードル』と『オレンジジュース』を置いた


 期待で胸が高鳴る。


 まずは麺を持ち上げるフィリア。


 白い湯気と共に細い麺が現れる。


 フィリアは、つやつやと輝いている麺を慎重に口へ運んだ。


 「……美味しい」


 モチモチとした弾力がある麺。


 噛む度に旨味を吸った麺が口の中で踊る。


 さらにスープは、魚介の旨味が凝縮されている。


 海老、貝、魚、様々な味が溶け合い、一つの完成された味になっていた。


 フィリアは夢中で麺をすすった。


 次に具材を食べる。


 小さな海老は香ばしく、噛んだ瞬間に旨味が溢れ出した。


 白いイカの独特な弾力も心地良い。


 さらに卵は、フワフワだ。


 どれも美味しく完成度が高い。


 スープを飲む手も止まらない。


 最後の一滴まで飲み干してしまった。


 そして今度は、オレンジジュースへ手を伸ばした。


 一口飲むと、爽やかな甘みが広がった。 


 果実の香りが鼻へ抜ける。


 優しい酸味と自然な甘み。


 魚介スープの濃厚な味をサッパリさせてくれる。


 フィリアは感動していた。


 シーフードヌードルも凄い。


 オレンジジュースも凄い。


 そして何より―――。


 それらを販売し、料理した『ゴーレム』が一番凄い。


 フィリアは、心から感心した。


 異界の技術は、本当に目を見張る物ばかりだ。


 そして、この国のゴーレムは優秀過ぎる。



 「ゴーレムさん……ごちそうさまでした」



 こうしてフィリアの中で、自動販売機の評価は急上昇したのであった。




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