表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
57/60

メニュー057 水⑤

 フィリアは、権蔵が運転する車に揺られている。

 

 唯の活躍により、日向製薬社長の自宅住所が分かった。


 唯の言葉が頭に浮かぶ。



 『フィリアちゃん、今は大変そうですので、何でもしてくれるっていう約束は、落ち着いてからでいいですからね』



 (落ち着いてからでいい)

 (つまり落ち着いたら、私は、闇ギルドに所属することになるだろう)

 (それでも構わない)

 (蘭ちゃんの安全と引き換えならば、そんな代償など安いものだ)


 権蔵が、ハンドルを器用に回しながら運転を続けている。


 (『車』という乗り物は、本当に不思議だ)

 (毎日、歌舞伎町で見かけていたが、実際に乗るのは初めてだ) 

 (馬がいないのに動いている)

 (重たい鉄の塊とは思えないほど、驚くべき速さで、滑らかに進んでいく)

 

 そしてフィリアは、窓の外へ視線を向ける。


 道の両側には、立派な木々が並び、高い塀と美しい庭園を備えた豪邸が建ち並んでいる。


 「まるで、王侯貴族の屋敷街ですね」


 「『松濤(しょうとう)』っていう高級住宅街だ。金持ちしか住めねぇ場所さ」


 フィリアは、唯のメモを取り出す。


 そのメモには、唯が調べた『二ヵ所の住所』が記されていた。


 『一ヶ所目』は、日向製薬社長、日向大三郎の自宅だ。


 「着いたぜ。この家だな」


 フィリアは、その壮大な屋敷に思わず息をのむ。


 高い石塀は、人の背丈をはるかに超え、重厚な門扉には、日向家の家紋が刻まれていた。


 建物は三階建ての洋館で、まるで宮殿のような威厳を放っている。


 「凄い建物ですね」


 「金持ちは、住む世界が違うな」


 権蔵は、インターホンのボタンを押した。


 ピンポーン。


 応答はない。


 「まあ、そうだろうな。だったら、これならとうだ」


 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。


 「権蔵さん?何をなさっているのですか?」


 「こういうのは、根比べなんだよ」


 すると、インターホンから女の怒鳴り声が響く。


 「うるさいわねぇ!一体どちら様ですの!」


 小さな箱 (インターホン)から、突然声が聞こえ、フィリアはビクリと肩を震わせる。


 「どうもどうも。わたくし、警視庁公安の山田と申します。ちょっとねぇ、お宅の娘さんが『家庭内暴力』を受けているという通報を頂きまして、様子を見に来たんですよ」


 権蔵は、ポケットから『警察手帳らしき物』を取り出して、カメラへ向けて掲げる。


 インターホンの向こうでは、慌てて何かを落としたような音が聞こえ、走る足音が続いた。


 フィリアは小声で尋ねる。


 「権蔵さんは、公安の方だったのですか?」


 フィリアは、『公安』を知っていた。


 『名探偵コヌン』で、黒の組織と対峙するコヌンの仲間として登場していたからだ。


 権蔵は、ヒソヒソと答えた。


 「んなわけあるか。嘘に決まってんだろ。この警察手帳もドラマ撮影用の小道具だ。昔、テレビ関係者から買い取った物を、そのまま持ってただけさ」


 そして、重厚な門が開き、蘭の継母が不機嫌そうに姿を現した。


 年齢は四十代半ばほどだろうか。


 ブランド物のワンピースに身を包み、派手な指輪をいくつも身につけている。


 「家庭内暴力ですって?どなたが、そんなくだらない嘘を吹き込んだのかしら」


 権蔵は、作り笑いをしながら頭を下げる。


 「いやぁ、何もないのであれば、それで結構なんですよ。ただ、一目だけ娘さんのお顔を拝見できませんかねぇ。元気な姿を確認できれば、こちらも安心して帰れますので」


 「必要ありませんわ。娘は勉強中です。帰ってください」


 そして継母は、門を閉めようとしたが、権蔵が門の隙間へ身体を滑り込ませた。


 「ハイハイ、お邪魔しま~す!」


 「ちょっと!何をしているんですの!」


 フィリアも慌てて後に続く。


 継母は、怒りで顔を真っ赤にしながら叫んだ。


 「勝手に入るなんて不法侵入ですわ!」


 「ハイハイ、これは超法規的措置で~す!」


 継母は、慌ててスマートフォンを取り出し、電話を掛け始めた。


 おそらく、日向大三郎へ連絡しているのだろう。


 その隙に権蔵は、廊下を駆け出した。


 「フィリア!二手に分かれて嬢ちゃんを探すぞ!」


 「はい!」


 二人は豪邸の部屋という部屋を次々と開けていく。


 応接室。

 書斎。

 客間。


 どこにも蘭はいない。


 (蘭ちゃん……どこですか)


 「お~い!フィリア~!いたぞ!」


 権蔵の声が屋敷中へ響く。


 フィリアは、声のする部屋へ全力で駆け込んだ。


 そこは、机と参考書だけが並ぶ殺風景な部屋だった。


 蘭は、机に向かったまま、小さく身体を震わせている。


 そして、蘭の姿を見た瞬間、フィリアは言葉を失った。




 昨日より酷かった。




 頬だけではない。




 腕にも首にも足にも、新しいアザが無数に残っている。




 まるで何度も殴られたかのようだった。




 「クソッ!」


 権蔵は、怒りを抑え切れない様子で、部屋を飛び出していった。


 部屋には、フィリアと蘭だけが残された。




 「フィリアさん……どうして……ここに……」




 フィリアは、蘭をそっと抱き締めた。




 「迎えに来ました……帰りましょう……私たちの家に……」




 「うん……帰る……喫茶異世界に……」




 フィリアが、蘭を連れて部屋を出ると、権蔵と継母が口論している。


 「おい!嬢ちゃんがアザだらけなんだが!どういう事だ!」


「あらやだ~、この子、本当にバカですのよ。だから、転んだんじゃないかしら」


 継母は、ヘラヘラと笑いながら、そう答えた。


 すると蘭は、全身アザだらけの身体で、静かに言った。


 「……転んでない……あの人に……殴られた」


 継母は、鬼の形相で蘭を睨みつける。


 「この子ったら、私の実の娘ではないの。前の母親の教育が悪かったのねぇ。嘘ばっかりつくようになってしまって」


 権蔵は「この野郎!嘘をついてやがるのはどっちだ!」と怒鳴り声を上げる。


 フィリアは「権蔵さん、落ちついて下さい。ひとまず蘭ちゃんも見つかりましたし、このまま連れて帰りましょう」と言った。


 「あら、勝手な事をされては、困りますよ。夫の許可なく娘を外に出す事は、禁じられておりますの」


 フィリアは「大丈夫です。今から社長さんの所に行って、許可をもらいますので」と答えた。


 そして、唯のメモを取り出した。


 唯に調べてもらった『二ヵ所目』は、『社長の居場所』であった。


 「いち警察官が、私の夫に交渉するつもりかしら。無理に決まっているでしょう。私の夫を誰だと思っていますの?この国の製薬業界のトップですのよ」


 するとフィリアは、静かに言った。




 「あなたこそ……『私の力』を……理解していないようです」




 フィリアの口調が、いつもと明らかに違う。




 フィリアの怒りは、限界に達していた。




 読んでいただき、ありがとうございました。


 【ブックマーク登録】や【★★★★★評価】で応援を頂けますと、とても励みになります。


 どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ