メニュー049 駄菓子①
梅雨空が続く六月の午後。
喫茶異世界では、権蔵と銭湯の常連客達が『夏祭り』の話題で盛り上がっていた。
「そういや権蔵さん。今年の夏祭りも出店を頼まれてるんだって?」
「ああ。射的の店を出そうと思ってる」
するとフィリアが「しゃてきとは、何でしょうか?」と尋ねた。
権蔵は「銃で、お菓子を撃ち落とす遊びさ」と答えた。
「……銃?」
フィリアは『銃』を知っている。
アニメ『名探偵コヌン』で、犯人が凶器として使っていた魔道具だ。
銃で……お菓子を撃つ?
撃ってしまったら、お菓子は粉々になってしまうのでは?
お菓子が勿体ないのでは?
フィリアが困惑していると、権蔵が「そろそろ景品用の駄菓子も仕入れないとな」と言った。
「だがし?」
またしても聞き慣れない単語だ。
常連の一人が優しく説明する。
「子供に親しまれている安い菓子のことさ。興味があるなら、一度『駄菓子屋』へ行ってみるといい」
そして権蔵が「俺がオススメの店を紹介してやる」と言って、紙とペンを取り出し、地図を書き始めた。
こうしてフィリアは、新たな異界文化を学ぶため、駄菓子屋へ向かうことになった。
一方蘭は、ホットサンド作りの練習をしたいらしく「今日は私……お留守番してる」と静かに言った。
さすが真面目な聖女様だ。
傘を差しながら10分ほど歩くと、駄菓子屋の木製の看板と色褪せた暖簾が姿をあらわした。
店先には、昔ながらの玩具が並び、ガラスケースの中には、駄菓子がぎっしり詰まっている。
「ここが……駄菓子屋さん」
「おやおや、外人さんかい。いらっしゃい」
おばあちゃんが笑顔で迎えてくれた。
「こんにちは」
フィリアは店内を歩きながら、気になる駄菓子を買い物カゴに入れていく。
「や、安いですね……これは沢山買えそうです……こちらも気になります……これは蘭ちゃんが好きそうですね……これも買いましょう」
気づけば、カゴは駄菓子でいっぱいになっていた。
ご機嫌な様子で、レジへ向かうフィリア。
「こんなに買ってくれて、ありがとねぇ。それじゃあ、これもサービスしようか」
おばあちゃんは、そう言って駄菓子を差し出した。
白色の駄菓子で、真ん中に小さな穴があいている。
「これはね、『ピーピーラムネ』っていうんだよ」
「ぴーぴー……らむね?」
「笛のラムネさ。音が鳴るお菓子なんだよ」
「音が鳴る……お菓子?」
フィリアは、理解が追いつかない。
「ほら、口にくわえて吹いてごらん」
フィリアは、言われるまま口へ運び、息を吹き込む。
ピィーーッ!
可愛らしい音が響いた。
「音が鳴りました!」
お菓子が楽器になっている。
でもなぜ、お菓子に楽器の機能が必要なのか。
フィリアは真剣に考える。
そうか!
フィリアは、全て理解した。
これは、子供が魔物に襲われた時、この笛で助けを呼ぶためのお菓子か!
実に合理的なお菓子だ!
もちろん、こちらの世界に魔物はいない。
だがフィリアは、感心するように何度も頷いている。
そして、おばあちゃんは、棚の奥から『ラムネ飲料』の瓶を取り出した。
「ラムネ繋がりで、これもサービスしようかね」
透明なガラス瓶の中には、透き通った液体が入っており、飲み口のすぐ下には『丸いガラス玉』が閉じ込められている。
「これは、飲み物なのですか?」
「そうさ。ラムネだよ」
フィリアは瓶を光にかざし、ぐるりと眺め回す。
「中に、透明な宝石が入っています」
「ハハハ、宝石じゃないよ。ガラス玉さ」
「ガラス玉?」
飲み物の中に、わざわざ『ガラス玉』を閉じ込める理由が分からない。
異界の文化は、奥が深い。
「さあ、飲んでごらん」
「ですが、どうやって開けるのでしょうか」
フィリアは瓶を回したり、引っ張ったり、押したりしてみる。
しかし、まったく開く気配がない。
その様子を見たおばあちゃんは「こうやるんだよ」と言って、開栓具を瓶の上へ置いた。
親指でぐっと押し込むと『ポンッ』と軽快な音が店内へ響き、ガラス玉が瓶の中へ落ちた。
「ほら、開いたよ」
「ありがとうございます」
そしてフィリアは、瓶に口をつけた。
だが―――
「……?」
飲めない。
ガラス玉が飲み口へ転がってきて、中身を塞いでしまうのだ。
少し傾ける。
また塞がる。
角度を変える。
やっぱり塞がる。
「ムムム……」
フィリアは、瓶と格闘を始めた。
フィリアのその様子を、笑顔で見守るおばあちゃん。
そして、ようやく液体を口へ含んだ瞬間―――
シュワ~
舌の上で細かな泡が弾ける。
フィリアは「ひゃっ!」と、思わず瓶を口から離した。
そして、舌を押さえながら固まってしまう。
「舌がピリピリします」
今まで経験したことのない刺激だ。
「攻撃されています」
フィリアは、慌てて自分の舌を確認した。
血は出ていないようだ。
だが、確かに攻撃されている。
もう一口飲んでみる。
「ひゃぅっ!」
また舌が刺激される。
「炭酸は初めてだったかい」
「たんさん……」
フィリアは、ラムネ瓶を見つめながら「きっと、このラムネを作った方は、とても意地悪な人なのでしょう」と呟いた。
そしてフィリアは、購入した駄菓子を味見するために、店先の長椅子に腰掛けた。
まず、一つ目の駄菓子を取り出すフィリア。
「ビッグチョコバー?」
一口かじってみる。
サクッという軽快な音とともに、濃厚な甘さが広がった。
「美味しいですね」
続いて取り出したのは『ヘビースターラーメン』。
ポリポリとした食感が面白い。
次は『ダラダラしてんじゃねーよ』というお菓子だ。
「変わった名前のお菓子ですね。きっと、子供達に『将来、怠け者になるなよ』と教えているのでしょう」
そして一口。
「か、辛いです!」
強烈な辛味と魚の旨味が交互に押し寄せてくる。
さらに『パチパチキャンディ』という駄菓子を口へ入れる。
パチパチ。
パチパチ。
口の中で、小さな爆発が起こっている。
「大変です!口の中で爆発魔法が唱えられています!」
最後は『オイシイ棒のチーズ味』だ。
サクッと軽い食感で、チーズの香りが鼻へ抜け、優しい塩気があとを引く。
「これは止まりませんね」
どの駄菓子も個性があり、とても面白い。
そしてフィリアの瞳が、何か閃いたようにキラリと輝いた。
「この駄菓子を使って、新しい『パフェ』を作ってみましょう!」
先日『コメビコーヒー』で食べた『フルーツパフェ』は、感動するほど美味しかった。
だからこそ思う。
同じ土俵で勝負しても、あの魔王が支配する店には敵わない。
ならば――
喫茶異世界らしいパフェを作れば良いのでは。
フィリアは、軽やかな足取りで帰宅した。
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