メニュー048 回転寿司②
夕方、フィリアと蘭は、銭湯へ来ていた。
熱い湯船にゆっくりと浸かり、梅雨の雨で冷えた身体がポカポカになった二人。
そしてフィリアは、今日も迷うことなく、番台のおばちゃんから『フルーツ牛乳』を受け取った。
「お風呂上がりは、やっぱりこれです」
一方蘭は『普通の瓶牛乳』を手に取る。
二人は腰に手をあてて、ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干した。
「何度飲んでも、フルーツ牛乳は素晴らしいですね」
「……お風呂の後は、これ」
フィリアは、空瓶を返却箱へ戻すと「これから外食に行きませんか?」と蘭を誘った。
蘭は、驚いたような表情を見せる。
「……いいの?」
「今日は、コーヒー豆の臨時収入が入りましたから、蘭ちゃんが行きたいお店で食事をしましょう」
「……行きたい店……ある」
そして20分後、二人は歌舞伎町の一角へやって来ていた。
【回転寿司・寿司バンザイ】
店内を流れる色とりどりの皿。
そして、その皿の上には――
「生の魚が……回っています」
フィリアは、店の入り口で、呆然と立ち尽くしている。
店内の長いレーン上を、生魚が次々と流れていく。
蘭は「生魚……大好き」と目を輝かせている。
どうやら蘭の好物らしい。
フィリアは『信じられない』という表情で蘭を見つめた。
「……さ、さ、さ、魚を……な、な、な、生で食べるのですか?」
帝国にも魚料理は存在する。
だが、生で食べるなど聞いたことがない。
「蘭ちゃん!危険です!生で魚を食べるなんて!私達は『ベアーウルフ』ではないのですよ!」
蘭は「……ベアーウルフ?」と首を傾げる。
ベアーウルフとは、帝国近郊に生息する熊型の魔物で、普段は川魚を主食としている。
蘭は「……生魚……美味しい」と、小さく微笑んだ。
二人は、案内されたカウンター席へ座った。
目の前には、上下二段に分かれた長いレーンが設置されている。
蘭は、慣れた手つきで湯飲みにお茶を入れ始める。
そして、カウンターの蛇口から、勢いよく熱湯が出てきた。
フィリアは、思わず身を引く。
さらにフィリアの驚きは続く。
ビューン!
「ッ!!??」
フィリアは、ビクッと肩を震わせた。
上段のレーンを、一枚の皿が、物凄いスピードで駆け抜けていったのだ。
一方蘭は、全く動じずタッチパネルを操作している。
「フィリアさん……何を注文する?」
「蘭ちゃんと同じものを注文いたします」
「……分かった」
蘭は、次々と画面をタップしていく。
数分後―――
ピューン!
再びビクッとさせるフィリア。
一皿の生魚が、レーン上を勢いよく滑って来た。
「た、食べ物が、自分からやって来ました」
「……まずは……マグロから」
皿の上に乗っていたのは、美しい赤身が輝く『マグロ』だった。
蘭は、皿を受け取りフィリアに手渡す。
「お寿司は……手づかみでも大丈夫……箸使えなくても……大丈夫」
「……わ、わかりました」
フィリアは、恐る恐る一貫持ち上げた。
「な、な、な、な、生の魚……」
そして覚悟を決め、一口で口へ運ぶ。
フィリアは、蒼い瞳を大きく開いた。
「美味しいです!」
しっとりとした身は驚くほど柔らかく、噛んだ瞬間、濃厚な旨味が広がる。
脂は決してしつこくなく、酢飯の優しい酸味が魚の味を引き立てていた。
フィリアが感動に浸っていると、蘭が小さな緑色の塊を指差した。
「……ワサビ……使ってみる?」
「……わさび?」
蘭に勧められるまま、フィリアは、マグロの上にワサビをのせて口へ運んだ。
「ふぇっ!!!」
フィリアは、思わず変な声を上げた。
一瞬、猛毒を口にしたのかと思った。
だが、鼻へ抜けた刺激が収まると、今度は爽やかな香りだけが残っていく。
マグロの旨味も、先ほどより鮮やかに感じられた。
「よかったです。毒では、ありませんでした」
「……慣れると……美味しい」
「不思議な調味料ですね」
その後も、次々と寿司が運ばれてくる。
『サーモン』は、とろけるような濃厚な脂が口に広がる。
『イカ』は、噛むほどに上品な味が滲み出てくる。
ふっくらと煮上げられた『アナゴ』は、タレが香ばしく、口の中でホロリと崩れていった。
『かっぱ巻き』は、胡瓜のみずみずしい食感が心地良く、合間に食べることで口の中がさっぱりと整えられる。
「回転寿司……素晴らしいです」
フィリアは、感動しっぱなしだった。
さらに、湯気を立てながら運ばれてきた『茶碗蒸し』へ匙を入れる。
プルンと揺れる卵は、絹のようになめらかで、出汁の味が優しく身体へ染み渡る。
『海苔の味噌汁』も、磯の香りが立ちのぼり、ホッと心が落ち着く味だった。
最後は、甘く熟した『メロン』と、濃厚な『バニラアイス』。
メロンという初めての果物に衝撃を受けるフィリア。
冷たいバニラアイスも最高だった。
「大満足です……」
フィリアは、幸せそうに息を吐いた。
気がつけば、二人の前には大量の皿が積み重なっている。
すると蘭が、皿を一枚ずつ『投入口』へ入れ始める。
「蘭ちゃん、何をしているのですか?」
「……5皿入れると……ゲームが始まる……当たると……景品がもらえる」
「景品?」
5枚目の皿が入った瞬間、目の前のタブレット画面が突然光り始めた。
軽快な音楽と共に映像が流れ始める。
フィリアは「魔王とオークが映っています!」と言って、画面に釘付けになっている。
画面では『ドワーフ田中』そっくりの男と、『バツコデラックス』そっくりの女が、並んで釣りをしている。
巨大な魚を狙っているらしい。
だが、魚は逃げてしまい『ハズレ~』と表示された。
「フィリアさんも……やってみて」
「やってみます」
フィリアも、皿を投入口へ入れる。
今度の魔王 (ドワーフ田中)は、巨大な魚と必死に格闘している。
隣では、オーク (バツコデラックス)が「頑張れぇ!」と応援していた。
魔王が、巨大なカジキマグロを豪快に釣り上げた。
画面いっぱいに『大当たり~♪』の文字が踊る。
「フィリアさん……すごい……当たった」
カランと音を立て、景品が取り出し口へ落ちてきた。
『ドワーフ田中のストラップ』だった。
そこには、笑顔のドワーフ田中が描かれており、大きく『あ・る・よ』と書かれている。
「…………」
フィリアは、完全に言葉を失った。
一方蘭は「……かわいい」と言って、自分のバッグにストラップを付けようとしている。
フィリアは、青ざめた顔で飛びつく。
「蘭ちゃん!いけません!」
「???」
「これは魔王の呪具です!安易に身につけてはいけません!」
「?????」
フィリアは「私が責任を持って封印します」と言って、慌ててストラップを回収したのであった。
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