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メニュー046 フルーツパフェ

 喫茶異世界の閉店後、フィリアは、メニュー表を真剣な表情で見つめていた。


 フィリアは、メニューを指でなぞっている。


 「コーヒー……コーンスープ……シーザーサラダ……ライ麦パン……ナポリタン……ホットサンド……」


 ちなみに、最近追加した『ホットサンド』は好評だった。


 そしてフィリアは、眉をひそめる。


 「ありません」


 「何が……ないの?」


 床をモップ掛けしていた蘭が振り返る。


 フィリアは、メニュー表を広げたまま答えた。


 「デザートです」


 蘭は、納得したように頷いた。


 確かに喫茶異世界には、甘味が存在しない。


 「これは大問題です」


 フィリアは、大の甘党だ。


 最近は、コンビニの『シュークリーム』に夢中で、以前は『栗まんじゅう』に、はまっていた。


 そんなフィリアが経営する喫茶店に、デザートメニューがないのはおかしい。


 すると蘭が、モップを片付けながら言った。


 「パフェとか……」


 「ぱふぇって、なんですか?」


 蘭は、パフェを知らないフィリアに驚いている。


 「パフェは……喫茶店定番の……デザート」


 フィリアは、パフェという未知のデザートに興味を持った。


 「蘭ちゃん、今からパフェを食べに行きましょう」


 こうして二人は、歌舞伎町へ繰り出した。


 10分後、二人は一軒の喫茶店の前に立っていた。


 看板には大きく店名が書かれている。



 【コメビコーヒー】



 最近、新宿ゴールデン街の近くに出来た大手チェーン店だ。


 つまり―――


 喫茶異世界のライバル店。


 フィリアは、店先の広告を見た瞬間、唖然とした。



 【トルコ料理フェア開催中です♪】

 【大好評のケバブ販売中です♪】



 「ケバブを、真似をされています」


 フィリアは真顔で呟いた。


 隣で蘭も呟く。


 「大手チェーンは……やる事が……えげつない……」


 「入りましょう。敵情視察です」


 こうして二人は、店内へ入った。


 扉を開けた瞬間、若い女性店員達の明るい声が響く。


 「いらっしゃいませ~!」


 「ようこそ~!コメビコーヒーへ!」


 「二名様ご案内しま~す!」


 広い店内は、大勢の客で活気に満ちていた。


 フィリアは圧倒されながら、案内されたテーブル席へ腰掛ける。


 そして、さっそくメニュー表を開いた。


 コーヒー、紅茶、サンドイッチ、パスタ、サラダ、ケーキ、デザート……。


 「すごい数のメニューです……」


 フィリアは驚愕した。


 喫茶異世界の10倍以上ある。


 そしてメニュー表の『トルコ料理フェア』に目を向ける。



 【歌舞伎町の喫茶店に、ケバブを持ち込んだケバブブームの火付け役『ドワーフ田中』の特製ケバブを販売中!】

 

 【トルコアイスもあ・る・よ♪】


 【本日『ドワーフ田中』による特別イベントが開催されます!】


 【サイン会もあ・る・よ♪】



 そして、真っ白な歯をキラリとさせた中年男の写真が、メニュー表に載っている。


 立派な髭。

 がっしりした体格。

 満面の笑顔。


 おそらくこの男が『ドワーフ田中』なのだろう。


 フィリアは、ドワーフ田中の写真を見て「誰ですか?このドワーフ族の男は?」と呟いた。


 蘭は「……芸人だよ」と答える。


 「げいにん?」


 「最近……テレビで見る人気芸人……」


 フィリアは、『芸人と』いう言葉はよく分からないが、この『ドワーフ族の男』が敵だという事は理解出来た。


 この男は、喫茶異世界のケバブの功績を奪っている。


 歌舞伎町の喫茶店で、ケバブを販売したのは喫茶異世界が先だ。


 だが、このメニュー表では『ドワーフ田中』が、喫茶店のケバブブームの火付け役として紹介されている。


 『ドワーフ田中』は芸名だが、フィリアの中で『ドワーフ族の悪い男』と認識された。


 そしてフィリアは、目的のパフェメニューを発見する。


 息を呑むフィリア。


 そこには宝石のような写真が並んでいた。


 イチゴパフェ、チョコレートパフェ、抹茶パフェ……。


 そして―――



 『フルーツパフェ』



 色鮮やかな果物が、山のように盛られている。


 フィリアは即決した。


 「これにします」


 蘭も同じ物を注文した。


 しばらくして、フルーツパフェが運ばれてきた。

 

 フィリアは言葉を失う。


 背の高いガラスの器。


 その底には、コーンフレークが敷き詰められ、その上にバニラアイス、さらに生クリーム、キウイ、イチゴ、バナナ、オレンジ、桃……。


 様々な果物が、豪華に盛り付けられている。


 頂上には、赤いサクランボが輝いていた。


 「……美しいです」


 そしてフィリアは、スプーンを手に取った。


 まずは、バニラアイスを一口。


 冷たくて甘いアイスが、口の中でゆっくり溶けていく。


 続いてイチゴ。


 甘酸っぱい果汁が、舌の上で弾けた。


 そして、キウイの爽やかな酸味、バナナの優しい甘さ、オレンジのみずみずしさ……。


 果物ごとに違う表情がある。


 さらにアイスと一緒に食べると、果汁と乳脂肪が混ざり合い、幸福な味わいへ変化した。


 「幸せです……」


 蘭も「うん……美味しい」と言っている。


 フィリアは、パフェを食べながら周囲を見回した。


 満席の店内。

 楽しそうな客達。

 次々と運ばれる料理。


 本当に繁盛していた。


 フィリアは静かに思う。


 この店は強敵だ。

 

 まるで、帝国を脅かす『魔王城』のようだ。


 そしてその時―――


 店内の音楽が、陽気な曲へ切り替わった。


 店員がマイクを持って叫ぶ。


 「まもなく、本日限りのスペシャルイベントを開催しま~す!」


 客席が盛り上がる。


 そして、一人の男が現れた。


 写真で見た『あの男』だった。


 立派な髭。

 がっしりした体格。

 満面の笑顔。



 【ドワーフ田中】だ。



 「どうだいみんな~!俺のケバブを食べてるか~い!」


 客席から歓声が上がる。


 さらにドワーフ田中は叫んだ。


 「トルコアイスもあ・る・よ!」


 再び歓声。


 どうやら『あ・る・よ』が、ドワーフ田中の『持ちギャグ』らしい。


 一方、フィリアと蘭は―――


 ポカーンと口を開けていた。


 フィリアは、しばらく沈黙した後、真剣な顔で言った。


 「蘭ちゃん」


 「……何?」


 「全て、理解しました」


 フィリアは、スプーンを握り締める。


 そして、壇上で歓声を浴びるドワーフ田中を指差す。


 「あのドワーフ族は、魔王です」


 「……?」


 「あの男は、喫茶異世界の宿敵です」


 「……???」


 フィリアは確信した。


 巨大な城 (店)で、大量の民 (客)を従え、ケバブの功績を奪い、絶大な人気を誇る。


 こんな存在が魔王でなくて何なのか。


 フィリアは、最後のサクランボを口へ運ぶ。


 こうしてフィリアの中で、ドワーフ田中は、正式に【魔王】として認定されたのであった。 




 読んでいただき、ありがとうございました。


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