表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/60

メニュー043 あんパン①

 【陸上自衛隊・番田視点】



 八王子教育隊で教官を務める【番田(ばんだ)】は、現在、とある喫茶店の道向かいに立っていた。



 【喫茶異世界】



 (変わった店名の喫茶店だ)


 番田は、腕を組みながら店を監視している。


 なぜ自衛隊の教官が、平日の昼間に喫茶店の前で張り込みをしているのか。


 その理由は、一週間前の一本の電話にあった。


 「こちら、八王子教育隊番田です」


 「伏見だが」


 受話器から聞こえてきた声は、教育隊の候補生、伏見唯の父親であった。



 【伏見一等陸佐】



 陸上自衛隊の幹部自衛官だ。


 番田は、その声を聞いた瞬間、背筋を伸ばした。


 「ふ、伏見一佐!本日はどのようなご用件でしょうか!」


 緊張で声が上擦っている。


 「ああ、番田君。いつも娘が世話になっているね」


 「いえ!こちらこそ!」


 「今日は君に聞きたい事があってね」


 「聞きたい事でございますか!」


 番田は、思わず居住まいを正す。


 「実は、娘の唯の事なんだが。唯が『休日に危険な個人訓練をしている』という噂を耳にしてね。本当だろうか?」


 番田は少し考えた。


 (確かに伏見候補生は、休日になると、必ず外出をする)

 (個人訓練を行っているのだろう)

 (だが、伏見候補生の詳しい行動までは把握していない)


 「はい。休日に外出して個人訓練に励んでいるようです。ただし休日はプライベートですので、どのような訓練を行っているのかまでは分かりません」


 「そうか……」


 伏見一佐は、少し考えるように沈黙した。


 そして静かに言った。


 「そこでなんだが、番田君に唯の休日の行動を調べて欲しいんだ」


 「え?」


 「無茶な訓練をしていないか、親としては心配でね。頼まれてくれるだろうか」


 番田は「もちろんであります!」と即答した。


 こうして番田は、現在、張り込みをしているのだった。


 (伏見候補生は、休日にどんな個人訓練を行っているのだろうか)

 (『不死身』と呼ばれている伏見候補生の訓練内容に、教官として興味がある)


 だが、伏見候補生が真っ先に向かった場所は、一軒の喫茶店だった。


 (確かに伏見候補生は、外出許可をもらいに来る時に『喫茶店に行くから外出したい』と言っていた)

 (その時は、とても信じられなかったが、本当に喫茶店に来ている)

 (過酷な訓練前の腹ごしらえだろうか)


 そして番田は、コンビニの袋から『あんパン』と『牛乳』を取り出した。


 (張り込みと言えば、やはり『あんパン』と『牛乳』だろう)

 (刑事ドラマの定番だ)


 番田が『あんパン』の包装を開くと、フワリと小麦の甘い香りに立ちのぼる。


 番田は、大きな口でガブリと頬張った。


 しっとりと柔らかな生地、そして奥から滑らかな粒あんが顔を覗かせる。


 上品な甘さの小豆が、疲れた身体に優しく染み渡っていく。


 昔ながらの素朴な味わいは、どこか懐かしい気持ちにさせてくれる。


 続いて『牛乳』を飲む。


 「ウマイな」


 冷たい牛乳が、あんこの甘さを引き立てている。


 「あんパンと牛乳は、最高の組み合わせだな」


 番田は、満足そうに頷いた。


 そして、喫茶店へ視線を戻す。


 伏見候補生は、店内にいるが、この場所からでは中の詳しい状況がわからない。


 番田は、思いきって店内に入る事にした。


 「盗み聞きは趣味ではないが、任務だからな」


 (伏見一佐から頼まれている以上、中途半端な報告は出来ない)


 番田は帽子を深く被ると、喫茶異世界の扉を開いた。


 店内へ入った瞬間、コーヒーのいい香りが漂ってきた。


 「いらっしゃいませ~。1名様ですか」


 北欧風美少女が声をかけてきた。


 ブロンドの長い髪と蒼い瞳が印象的だ。


 番田は「1人です」と静かに答える。


 「こちらへどうぞ~」


 案内されたテーブル席に腰を掛ける。


 店内は思った以上に混んでいた。


 (どうやら人気店らしい)


 伏見候補生は、カウンター席に座っているようだ。


 番田は、メニュー表を開いて思わず「ケバブ!?」と大きめの声が漏らしてしまった。


 慌てて口を押さえる番田。


 伏見候補生は気づいていないようだ。


 喫茶店のメニューにケバブが載っている。


 すると、北欧風美少女店員が得意げに言った。


 「ケバブは、当店の人気メニューです」


 「そ、そうですか。それではコーヒーとケバブをお願いします」


 「ありがとうございます」


 番田が注文を終えて一息つくと、カウンターから楽しそうな声が聞こえてきた。


 伏見候補生の声だ。


 番田は耳を傾ける。


 「フィリアちゃんのおかげで、毎日元気に訓練出来ています!」


 伏見候補生は、先程の北欧風美少女に話し掛けているようだ。


 名前はフィリアというらしい。


 フィリアは、ケバブを作りながら、伏見候補生の相手をしている。


 そしてフィリアは、ケバブとコーヒーを番田のテーブル席まで運び「ごゆっくりどうぞ」と言ってカウンターに戻っていった。


 伏見候補生は、忙しそうに働くフィリアに、紙袋を差し出している。


 「これはシュークリームです!最近フィリアちゃんは、シュークリームにドはまりしているとの情報を得ましたので!買って来ました!」


 番田は、カウンターの様子を観察しながら、運ばれてきたケバブを食べていた。


 香辛料の香り。

 舌に感じる肉汁の旨み。

 シャキシャキした瑞々しい野菜の食感。


 「ウマイな」


 続けて番田は、コーヒーを飲む。


 「ウ、ウマイな」


 どちらも驚くほど美味しい。


 だが、今はそれどころではない。



 『フィリアちゃんのおかげで、毎日元気に訓練出来ています!』



 先程耳にした伏見候補生のこの言葉。


 (そうか!)


 番田の中で、一つの仮説が完成した。


 (あのフィリアという女性は、伏見候補生のトレーナーか!)

 (きっとそうだ、間違いない)

 (伏見候補生を体力面、栄養面、精神面のあらゆる角度からサポートしている専属トレーナーだ)

 (なるほど)

 (伏見候補生は、休日に、専属トレーナーと訓練を行っていたのか)


 番田は深く納得した。


 (伏見候補生の並外れた体力の秘密は、あの専属トレーナーにあったという事か)


 番田の視線が、カウンターに立つフィリアに向けられる。


 「優秀なトレーナーだな……」


 そして伏見候補生が立ち上がる。


 「また来週来ますね!おかげで元気をもらいました!今日も、行ける所まで走って帰れそうです!」


 (走って帰るだと!?)

 (新宿から八王子まで!?)

 (これから個人訓練を行うつもりか!?)


 伏見候補生は、番田のテーブル席を横切ると、笑顔で店を出て行った。


 番田は、伏見候補生に見つからないように、慌てて帽子を深く被る。


 (急いで伏見候補生を追いかけないといけないが……)

 (その前に、やらなければならない事がある)

 (お世話になっているトレーナーへ、ご挨拶をしておかなければ)


 番田は席を立つと、カウンターのフィリアの元へ向かうのだった。



 

 読んでいただき、ありがとうございました。


 【ブックマーク登録】や【★★★★★評価】で応援を頂けますと、とても励みになります。


 どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ