メニュー003 豚汁①
フィリアは、ゆっくりと目を開いた。
「……ここは」
フィリアの目に、まず飛び込んできたのは、天高くそびえる巨大な『建造物』だった。
それも、1つではない。
四方を取り囲む、巨大建造物の数々。
ルークベル帝国の王宮が、とても小さく見える程だ。
光を反射する透明な壁面。
滑らかな外壁。
石造りの王宮とは、まるで作りが違う。
「……ここが異界」
フィリアは、本当に異界へ来たのだ。
肌で感じる冷たい澄んだ空気。
フィリアの吐いた息が、すぐに白くなる。
地下牢も冷たかったが、それとは別の種類の冷たさだ。
決して不快な冷たさではなく、むしろどこか心地良かった。
街は、とてもにぎやかだ。
今日は、きっと何かを祝う『お祭り』なのだろう。
まるで、王都の建国祭のようだ。
大勢の人が行き交い、庶民の日常会話が絶えず聞こえてくる。
通りでは、馬が見当たらないのに、人を乗せた『何か』が走り続けている。
巨大建造物の壁面では、『精巧な絵 (モニター)』が動いていた。
フィリアは、その『動く絵』を凝視した。
これは、『魔道具』だろうか。
このような魔道具は、帝国でも見た事がない。
そしてフィリアは、空を見上げた。
帝国の冬空に、よく似ている。
季節は、おそらく『冬』だろう。
帝国の冬は、平民にとって、生きるために必死になる季節だ。
しかしこの街は、どこか余裕が感じられる。
店先や街路樹には『光の装飾』が飾られていた。
赤、青、金、銀など、夜でもないのに発光している。
昼間から発光させているのは、なぜだろう。
魔道具の無駄使いではないのか。
近くを歩く女性達の会話が聞こえてくる。
「クリスマスのイルミネーション綺麗だね」
「スマホで写真撮ろうよ」
フィリアは、女性達の会話が理解出来る事に驚いた。
『すまほ?』という言葉は、よくわからないが、会話は理解出来る。
どうして異界の言葉がわかるのか。
フィリアは、昔読んだ古文書の内容を思い出した。
【異界へ渡った人間は、現地の言語を感覚的に理解する能力を得る】
伝承の一つとして語られていた話だ。
半信半疑だったが、どうやら本当らしい。
そして、突然―――。
街中に、大きな咆哮が鳴り響いた。
グオオオオオオオオオオッッッ!!!
フィリアの身体が反射的に震える。
蒼い瞳が音の方を向いた。
フィリアは固まった。
それは、あまりにも巨大だった。
建物の上から『真っ黒な怪物の頭』が突き出している。
「……ド、ドラゴン!?」
フィリアは、驚愕の表情で、そう言った。
鋭い牙、巨大な口、凶暴な目つき。
まるで、帝国のおとぎ話に登場する『古代竜』のような圧倒的存在感。
フィリアは、恐怖のあまり後ずさる。
魔物だ。
しかも国家滅亡級の。
だが不思議なことに、周囲の人々は、誰一人として慌てていなかった。
逃げない。
悲鳴も上がらない。
むしろ笑っている。
若者達は、怪物へ向かって『小さな板 (スマホ)』を向けていた。
そして笑顔で話している。
「ゴヂラ最高!」
「めっちゃ映える~!」
「ゴヂラ~!こっち向いて~!」
フィリアは、困惑した。
なぜ笑っているのだろう。
なぜ逃げないのだろう。
あのドラゴンは危険ではないのか。
それとも異界では、魔物と共存しているとでもいうのか。
未知の文化だ。
そして周囲の若者達は、フィリアの方をチラチラと見ていた。
「あの子すごく可愛くない?」
「外国人かな?」
「海外のコスプレイヤーじゃない?」
フィリアは、自分の服を見下ろした。
地下牢へ入れられる前に着ていた質素な麻の服。
貴族達から見れば平民そのもの。
だが、この世界では珍しい服装らしい。
少なくとも敵意は感じなかった。
それどころか興味を持たれているようだ。
フィリアは、少し安堵する。
異界に来て早々、不審者として警備隊に捕まる事はなさそうだ。
そしてフィリアは、とある大きな看板に目を向けた。
初めて見る文字だが、『言語理解能力』によって読む事が出来た。
フィリアは、ゆっくりと読み上げる。
「しんじゅく、かぶきちょう、いちばんがい?」
どうやら『この街』の名前らしい。
フィリアが転移した場所は―――。
日本の―――【東京都・新宿区】。
この異界が、一体どんな所なのかは、まだわからない。
それでもフィリアは、歩き始めるのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。
【ブックマーク登録】や【★★★★★評価】で応援を頂けますと、とても励みになります。
どうぞよろしくお願い致します。




