一人じゃない 2
着替えを終えて
リビングへ戻る頃には、
部屋の中は
すっかり夕飯の香りが広がっていた。
甘辛い割り下の匂い。
野菜の甘い香り。
思わずお腹が鳴りそうになる。
昨夜からまともに
食事を楽しむ余裕なんてなかった。
だからだろうか。
その香りだけで
少し幸せな気持ちになった。
テーブルの上には
大きな鍋が置かれている。
湯気の向こうで肉が
柔らかそうに揺れていた。
「お待たせいたしました」
景が穏やかに微笑む。
「本日の夕食はすき焼きでございます」
「わぁ……」
思わず声が漏れる。
見るからに上質なお肉。
彩り豊かな野菜。
それだけではない。
冷蔵庫にはデザートらしき容器まで
冷やされていた。
「若と唯衣様の身体へ少しでも
早く生気が戻りますように」
景は当然のように言う。
「肉も野菜も一度に摂れますので」
「いただきます」
手を合わせて一口食べる。
その瞬間。
唯衣は目を丸くした。
「美味しい……!」
思わず声が漏れる。
お肉は柔らかく。
出汁は優しい。
身体の奥へ
じんわり染み込むような味だった。
すると景は満足そうに微笑んだ。
「たくさん召し上がってください」
「なにせ本家から
根こそぎ持って参りましたので」
「お前、それで荷物が多かったのか」
レオが呆れたように言う。
だが箸は止まらない。
むしろかなり食べている。
「料理長が泣くぞ」
「問題ありません」
景は即答した。
「あちらも
若が召し上がるなら本望でしょう」
「絶対違う」
レオが断言する。
気がつけば、自然と笑っていた。
食事が終わる頃には
身体も少し軽くなっていた。
そして食後。
景が冷蔵庫から
小さなガラス皿を取り出す。
「こちらもどうぞ」
キャロットオレンジシャーベットだった。
鮮やかな橙色が綺麗だ。
ひと口食べる。
爽やかな甘みと柑橘の香りが
口いっぱいに広がった。
疲れていた身体へ優しく染み渡る。
「おいしい……」
思わず呟く。
景は満足そうに頷いた。
その後。
食器を片付けながら景が振り返る。
「唯衣様」
「はい?」
「食後はいつものでよろしいですか?」
「あっ、はい」
その瞬間だった。
レオの耳がぴくりと動く。
「……いつもの?」
低い声だった。
唯衣はきょとんとする。
「あっ、朝ね」
「景さんがカフェラテ淹れてくれて」
「すごく美味しかったの」
沈黙。
レオがゆっくり景を見る。
景は平然としていた。
「景」
「はい」
「お前ほんと殺す」
「おやおや」
景は微笑む。
「嫉妬は健康に良いそうですよ」
「初めて聞いた」
「今作りましたので」
「帰れ」
2人のやりとりは楽しい。
そのあと
三人でリビングのソファへ移動した。
窓の外は夜の帳が降りている。
月の光が部屋へ差し込み、
静かな時間が流れている。
景が淹れてくれた
カフェラテを両手で包む。
温かい。
その温もりに肩の力が少し抜ける。
レオもコーヒーを
ひと口飲んでから口を開いた。
「何が聞きたい?」
唯衣はカップを見つめたまま少し考える。
聞きたいことはたくさんあった。
けれど。
一番知りたいことは決まっていた。
唯衣はカップを見つめたまま口を開く。
「レオの身体」
静かな声だった。
「本当に大丈夫なの?」
レオの金色の瞳がこちらを見る。
「それと」
唯衣は少し息を吸った。
「わたし、人族でしょ?」
「レオは狼族」
「結婚って認めてもらえるの?」
部屋に静かな沈黙が落ちる。
答えたのはレオだった。
本編に入れてないR18投稿してます。
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本編の裏側や、レオと唯衣の甘い日常をXで更新中です。
小説の合間の息抜きにどうぞ。
X「真壁レオは今日も重い」
@reo_yui_archive




