真壁レオ6
第五統合生活支援事業部、52階。
昼休憩直前。
空間演出課には妙な緊張感が漂っていた。
「……また来た」
誰かが小声で呟く。
入口を見ると、そこには真壁レオがいた。
統括管理官。
第五統合の上層。
めったに現場へ降りてこない男。
なのにここ最近、異様な頻度で空間演出課へ来る。
しかも毎回。
「白石いるか」
それだけ言う。
課員たちは完全に怯えていた。
「空間演出課、なんかやらかした?」 「統括、ずっと機嫌悪くない?」 「朝倉さん胃痛やばそう」
ひそひそ声が飛び交う。
だが。
唯衣だけは違った。
(統括さん、細かい人なんだな……)
くらいにしか思っていない。
平和だった。
ある意味、一番怖い。
「白石」
低い声。
唯衣は慌てて立ち上がる。
「は、はい!」
レオは無言でタブレットを差し出した。
「昨日の居住導線データ。修正したの、お前か」
「え? あ、はい」
「……見やすかった」
周囲が静まり返る。
空間演出課全員の動きが止まった。
今。
統括が。
褒めた?
レオは気付いていない。
唯衣しか見ていないからだ。
「獣人区画側のストレス値も下がってる。悪くない」
「え、あ、ありがとうございます……?」
唯衣は戸惑っていた。
なんで統括直々に来るんだろう。
しかも最近、妙に話しかけられる。
すると横から千景が、にやにやしながら割って入った。
「統括ぅ。最近うちの唯衣ちゃんばっかりじゃないです?」
その瞬間。
空気が凍る。
周囲が「言ったーーーー!!!」みたいな顔になる。
レオの眉間がぴくりと動いた。
「……優秀な人材を確認してるだけだ」
「ふぅん?」
千景は完全に面白がっている。
唯衣だけが状況を理解していない。
「白石」
「は、はい!」
「今日、残業するな」
「え?」
「顔色悪い」
「えっ!? そうですか!?」
「そう見える」
即答だった。
唯衣は慌てて自分の頬を触る。
その横で、千景が吹き出しそうになっていた。
統括。
昨日から白石唯衣の勤務ログ、 七回確認してるんだけど。
しかも食堂利用履歴まで見てる。
怖い。
でも本人は大真面目だった。
レオは唯衣を見つめたまま、静かに口を開く。
「今日は定時で帰れ」
逆らうな。
そんな圧がすごい。
「……はい」
唯衣が頷いた瞬間。
レオの機嫌が、目に見えて良くなった。
空間演出課全員が察した。
(あ、これ……)
(統括、白石さん好きだ)
一人だけ。
唯衣だけが気付いていなかった。




