白石唯衣2/真壁レオ7
入社して三ヶ月。
唯衣は、少しずつ仕事に慣れ始めていた。
出来ることが増えた。
任される仕事も増えた。
その分、時間内に終わらないことも多くなったけれど、不思議と苦ではない。
情報が整理されていく感覚。
空間が整っていく感覚。
誰かが働きやすくなる感覚。
それが、気持ちよかった。
気付けば今日も残業していた。
第五統合、空間演出課。
広いオフィスはすでに消灯されていて、唯衣のデスクだけが淡く光っている。
カタカタ、と静かなタイピング音。
あと少し。
この資料を整えれば終われる。
そう思った時だった。
「白石」
低い声。
突然呼ばれ、唯衣は肩を跳ねさせた。
顔を上げる。
そこに立っていたのは、真壁レオだった。
「統括……!?」
こんな時間にいると思わなかった。
レオは暗いオフィスを見回し、眉を寄せる。
「こんな時間まで残る必要あるか」
「申し訳ありません。週明けには提出したくて……あと少しだったので、やり切って帰ろうかなって」
「終電なくなるだろ」
「歩いて帰ります」
「歩き?」
レオの眉間の皺が深くなる。
「ここから二駅離れてる」
唯衣はきょとんとした。
「……統括、なんで知ってるんですか?」
一瞬。
レオの脳が止まる。
しまった。
だが表情は変えない。
「社員データは全部頭に入ってる」
平然と答える。
唯衣の目が、一気に輝いた。
「さすがです!」
満面の笑み。
その瞬間。
レオの心臓が大暴れした。
まずい。
笑顔がまずい。
可愛い。
耳出る。
しっぽも危険。
脳内の獣が床を転がっている。
「……っ」
必死に理性を繋ぎ止める。
「……オレが送る」
「え?」
「車で来てる」
少しだけ目を逸らしながら言うレオに、唯衣はぱっと顔を明るくした。
「ありがとうございます! すぐ仕上げますね!」
再びPCへ向かう。
その姿を数秒見つめたあと、レオは踵を返した。
「五分で戻る」
それだけ言い残し、空間演出課を出る。
扉が閉まった瞬間。
「……やばい」
思わず声が漏れた。
嬉しい。
一緒に帰れる。
車内で二人きり。
オレ、グッジョブ。
顔が緩む。
まずい。
本当にまずい。
でも。
この幸福感を、少しぐらい噛み締めてもいいだろう。
レオは誰もいない廊下で、そっと口元を押さえた。
しっぽが出ないようにするので精一杯だった。




