出勤4
「しばらく会社休みたいか…
うん、なら
《ステラ・エスケープ》を
申請してあげましょうよ」
千景が軽く指を鳴らした。
「社内で『最も栄誉あるリフレッシュ』
って呼ばれてる特別休暇制度があるの。」
「大きなプロジェクトを成功させた社員や、
会社へ大きく貢献した社員だけに贈られる
ご褒美休暇のことね」
唯衣が目を瞬く。
「ご褒美休暇……ですか?」
「そう。 意味は『星の逃避行』」
「オシャレでしょ?」
「夜空の星みたいに輝いた社員に、
日常の重力から解放されて、
どこか遠くへ逃避行してほしい」
「そんな会社からのメッセージが
込められてるの」
「わたしも新人のころ貰った休暇だよ〜」
「相変わらず、
うちの福利厚生は無駄に洒落てるよな」
朝倉が苦笑する。
「いいじゃない。
夢があるもの」
千景は肩を竦める。
「有給消化とは別枠」
「 完全に会社負担の特別休暇だし! 」
「しかも唯衣ちゃん、
新人なのにあのプロジェクトを成功させた
功労者でしょう?」
そう言って、向かい側へ視線を向けた。
「認められるわよね?」
視線の先。
レオは真顔だった。
だが口元だけが僅かに上がっている。
どう見ても機嫌がいい。
「それに決裁するのは……」
千景がにやりと笑う。
「そこの真顔で
ニヤニヤしてる統括だしね」
「ニヤニヤしてない」
即答だった。
「してる」
「してますね」
朝倉まで頷く。
レオは不服そうに眉を寄せたが、
「……十日」
とだけ呟いた。
「え?」
唯衣が瞬く。
「最長の十日で申請しろ」
その声だけは妙に早かった。
朝倉さんと千景さんは
顔を見合わせ、
呆れたように笑う。
結局、
その後も少しだけ雑談を交わし、
食事会は
穏やかな空気のままお開きになった。
食事を終えると、
そのまま帰宅していいと言われた。
わたしの体調と、レオの体調。
その両方を考えてくれた
朝倉さんと千景さんの配慮だった。
ステラ・エスケープの申請は
タブレットから行うよう指示されている。
うまく承認されれば、
明日から適用される。
レオは店を出る前に、
朝倉さんへ簡単な引き継ぎをしていた。
その横顔は
いつも通りだったけれど、
時折眉を寄せている。
まだ本調子ではないのだろう。
帰り道。
わたしはレオと手を繋いで歩いていた。
見上げると、
レオの瞳はまだ濃い金色のまま。
耳も尻尾も消えていない。
完全には落ち着いていない証拠だ。
それでも、
纏う空気は昨夜よりずっと柔らかかった。
わたしはレオから視線を外し、
空を見上げる。
澄み渡った青空。
気持ちのいい風が頬を撫でる。
今日、会社へ行ってよかった。
正直なところ、
朝は身体も心も限界だった。
それでも
朝倉さんにも
千景さんにも
話を聞いてもらえた。
そして何より。
わたしもレオのためにできることをやろう。
そう思えた。
小さいけれど、
大切な一歩だった。
「レオ」
「ん?」
「わたし、この休暇を使って、
獣人さんたちのことをちゃんと知ろうと思うの」
繋いだ手に少し力が入る。
「レオのことも」
「ちゃんと教えてほしい」
繋いだ手がわずかに強く握られる。
レオが足を止めた。
驚いたような顔でわたしを見る。
「ちゃんと向き合いたいから」
少しだけ沈黙が落ちる。
風が吹いた。
レオの白銀の髪が揺れる。
それから。
レオは静かに頷いた。
「わかった」
その声は思っていたより優しかった。
「ちゃんと話す」
それだけ言うと、
また前を向いて歩き出す。
けれど
繋いだ手だけは離れなかった。
むしろ少しだけ強く握り返される。
わたしは小さく笑った。
見上げれば、
どこまでも青い空が広がっている。
昨日まで見えていた景色とは、
同じはずなのに少しだけ違って見えた。
きっと
これも前へ進むための一歩なのだと思った。
本編の裏側や、
レオと唯衣の甘い日常をXで更新中です。
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X「真壁レオは今日も重い」
@reo_yui_archive




