番薬7
唯衣の胸が痛かった。
レオが怖がっている。
怒っているんじゃない。
苦しんでいるんじゃない。
怖がっている。
わたしを失うことを。
その事実が胸を締め付ける。
「レオ……」
震える声で名前を呼ぶ。
レオは少しだけ目を閉じた。
まだ熱い。
抑制剤が効いてきたとはいえ、額には汗が滲んでいる。
それでも離さない。
抱きしめる腕だけは緩めなかった。
「なぁ」
掠れた声。
「……うん」
「今日」
レオが少し笑う。
自嘲するみたいに。
「初めて怖かった」
唯衣が息を呑む。
レオがそんなことを言うなんて。
「薬じゃない」
「発情でもない」
「会社も家も獣人社会もどうでもいい」
レオの指が唯衣の髪を梳く。
優しく。
何度も。
「お前がいなくなるのが怖かった」
ぽろり。
唯衣の目から涙が落ちる。
レオはそれを見て困ったように笑った。
「泣くなよ」
「泣いてるのレオじゃん……」
唯衣がそう言うと、
レオは一瞬だけ固まった。
そして。
「……バレたか」
少しだけ鼻を鳴らした。
その顔があまりにも弱々しくて。
あまりにも愛しくて。
唯衣は思わずレオの胸へ額を押し付けた。
「わたし」
声が震える。
「まだ怖いよ」
正直に言う。
「番のことも」
「獣人のことも」
「これからどうなるかも」
全部怖い。
レオは黙って聞いていた。
途中で否定しない。
途中で遮らない。
ただ聞いている。
「でも」
唯衣は顔を上げた。
「レオがいない方がもっと怖い」
レオの瞳が揺れた。
濃い金色の瞳。
獣人の瞳。
だけど。
今見えているのは獣人じゃない。
わたしの好きな人。
レオだった。
「だから」
唯衣はレオの頬へ手を添える。
「一緒に考えよう」
「……」
「番とか」
「薬とか」
「獣人とか」
「全部」
レオがじっと見つめてくる。
「わたしも逃げない」
静かな声だった。
だけど。
今までで一番強い言葉だった。
しばらく沈黙が落ちる。
雨音だけが聞こえる。
やがて。
レオは額を押し付けるように唯衣へ寄りかかった。
まるで全身の力が抜けたみたいに。
「……参ったな」
小さく呟く。
「何が?」
「お前」
レオが苦笑する。
「思ったよりずっと強かった」
唯衣は少しだけ笑った。
「誰の恋人だと思ってるの」
その瞬間。
レオが吹き出した。
久しぶりに聞いた笑い声だった。
「それ俺の台詞」
そう言って。
レオは唯衣を抱き寄せる。
強くはない。
逃げられないほどでもない。
ただ、
絶対に離したくないと伝わる抱擁だった。
窓の外では雨が降っている。
けれど、
二人の心は少しだけ晴れ始めていた。
本編の裏側や、
レオと唯衣の甘い日常をXで更新中です。
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X「真壁レオは今日も重い」
@reo_yui_archive




