番薬4
着替えを終え、レオと一緒にリビングへ戻る。
景は、二人が出てくるのを分かっていたかのように席を立った。
すでに器にはうどんがよそわれている。
湯気が立ち上り、優しい出汁の香りが部屋いっぱいに広がっていた。
「さあ、召し上がれ」
景は自然な仕草で器を二人の前へ置く。
「唯衣様」
「熱いのでお気を付けください」
そう言って微笑んだ。
穏やかな笑みだった。
その顔を見た瞬間。
張り詰めていた心が少しだけ緩む。
空気が軽く感じられた。
「いただきます」
小さく手を合わせる。
温かい出汁が身体へ染み渡った。
気付けば、何も食べていなかった。
お腹も空いていたらしい。
レオも静かに箸を進めている。
まだ顔色は良くない。
それでも先ほどよりずっと落ち着いて見えた。
しっかり食べたおかげだろうか。
唯衣も少しずつ気持ちが落ち着いてくる。
泣きすぎて重かった胸が、ほんの少しだけ軽くなった。
食事が終わる頃には、雨音だけが静かに部屋へ響いていた。
その夜。
景はこの家へ泊まることになった。
レオの状態がどう変化するか分からないからだ。
当然、レオは最後まで反対した。
「帰れ」
「嫌です」
「帰れ」
「嫌です」
「景」
「はい」
「帰れ」
「断ります」
景は即答だった。
唯衣は思わず苦笑する。
結局、
「お願い、いてください。」
唯衣がそう頼んだ瞬間、景は
「おおせのままに」
と美しく一礼した。
そして。
レオだけが納得していなかった。
「……なんで俺と唯衣の家に他人がいるんだよ」
「唯衣が他の男と一緒にいてるのイラつく」
ぼそりと呟く。
景は涼しい顔で答えた。
「若、小さいです。全てが」
「それに、かわいい唯衣様のお願いですので断れません」
「お前やっぱり殺す」
「本日二十三回目ですね」
「数えてんのかよ」
少しだけ。
本当に少しだけ。
いつもの日常が戻ってきた気がした。




