番薬3
「若、少し落ち着かれたようですね」
景が穏やかに言った。
「では、夕食にいたしましょう」
「さきほど2人の世界にいってらっしゃる間、
御台所をお借りしておりました」
「簡単なものですが作らせていただきましたので、温かいうちにどうぞ」
テーブルの上には湯気の立つ大きな器が並んでいた。
肉がたっぷり入った肉うどん。
優しい出汁の香りが部屋に広がる。
張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
「唯衣様」
景がこちらへ向き直る。
「お着替えを先にされますか?」
「そのドレスではゆっくりお寛ぎになれないでしょう」
そう言って自然に手を差し出した。
「さあ、お手伝いいたします」
その瞬間。
「景」
低い声が響く。
景が視線を向ける。
レオが不機嫌そうに眉を寄せていた。
「てめぇ、さっきからわざとだろ」
「おや?」
「おやじゃねぇ」
即答だった。
「お前が先に食っとけ」
レオは立ち上がると、唯衣の腰を引き寄せる。
「唯衣の世話は俺がする」
ぼそぼそと何かを呟いている。
「マジでムカつく」
とかそんな感じだった。
「レオ……」
唯衣が困ったように見上げる。
レオは答えず、そのまま衣装部屋へ向かう。
景は二人の背中を見送りながら肩を竦めた。
「おやおや。本家から最高級の肉を調達してきましたので、お早めに」
そして少しだけ真面目な声になる。
「若」
レオが振り返る。
「しばらくは唯衣様のお身体へ深く触れるのはお控えください」
ぴたり。
レオが止まる。
景は涼しい顔で続けた。
「薬が効いているとはいえ、まだ不安定ですので」
数秒の沈黙。
「……分かってる」
不機嫌そうな返事。
景は満足そうに頷いた。
「結構です」
そして何事もなかったように席へ着く。
「では」
箸を手に取る。
「先にいただいておりますので、くれぐれもお早めに。うどんはタイミングが命です」
そう言って本当に食べ始めた。
レオの額に青筋が浮かんだ。
「やっぱりムカつく」
その呟きに、唯衣は思わず笑ってしまった。




