番薬1
どれくらい時間が経ったのだろう。
苦しむレオを抱きしめ、背中をさすり続ける。
涙が溢れてくる。
気持ちもぐちゃぐちゃだ。
静かな雨音だけが部屋に響く。
その時だった。
窓が小さく揺れる。
はっと顔を上げる。
次の瞬間。
大きな黒い翼が夜を切り裂くように現れた。
漆黒の羽が静かに畳まれる。
車で送ってくれた黒スーツの男性だった。
「若、唯衣様。失礼いたします」
深く一礼する。
そしてレオの様子を見るなり、わずかに眉を寄せた。
「お待たせいたしました」
唯衣は思わず立ち上がる。
「どうでしたか……?」
男性は一瞬だけ視線を伏せた。
「本家へ確認いたしましたが、現状の若様に使用できる解毒薬はありませんでした。」
唯衣の顔から血の気が引く。
しかし彼は続けた。
「ですが、抑制剤を持参しております」
「症状を抑え、身体への負担を軽減することは可能です」
「こちらを」
そう言って彼は小さな錠剤をレオへ差し出した。
レオは苦々しい顔をしながらも、それを飲み込む。
彼は時計を確認しながら淡々と告げた。
「薬が効くまで少し時間はかかります」
「かなり強い抑制剤ですので、発情は落ち着くはずです」
そして一度レオを見る。
「若なら問題ないでしょう」
言い方が雑だった。
だが、不思議と信頼が滲んでいる。
レオは苦しそうに眉を寄せた。
「……雑」
「生きていますので問題ありません」
即答だった。
彼は立ち上がる。
そして唯衣へ向き直った。
「さて」
「きちんと自己紹介をしておきましょう」
すっと胸へ手を当て、一礼する。
その所作は驚くほど美しかった。
「榊景と申します」
「若の従者兼補佐役兼お世話係です」
そこで一拍置く。
「あと、若のストレス解消係も兼任しております」
唯衣はぽかんとした。
最後の一言だけ意味が分からない。
「え……?」
困ったように瞬きを繰り返す。
「あ、あの……」
慌てて頭を下げた。
「こんな姿で申し訳ありません」
「白石唯衣と申します」
涙でぐしゃぐしゃだった顔が少し恥ずかしい。
けれど景は気にした様子もなく微笑んだ。
「存じ上げておりますよ」
「白石唯衣様」
柔らかな笑み。
そしてさらりと続ける。
「お会いできて光栄です」
その瞬間。
背後から低い声が響いた。
「……お前」
景が振り返る。
レオがソファにもたれながら睨んでいた。
「色々……殺す」
声は掠れている。
だが殺気だけは元気だった。
景は感心したように頷く。
「おや」
「随分お元気になられましたね」
「薬が効き始めたようで何よりです」
すました顔で答える。
「景……」
「はい」
「あとで覚えとけ」
「承知いたしました」
全く承知していない顔だった。
本編の裏側や
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X「真壁レオは今日も重い」
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