レセプションパーティ8 車に向かう
会場の外へ出た瞬間。
冷たい夜風が、レオの熱を煽るように吹き抜けた。
「っ……」
レオの脚がわずかによろめく。
唯衣は慌ててその身体を支えた。
「レオ、大丈夫!?」
「……大丈夫じゃない」
即答だった。
珍しい。
レオが、ちゃんと弱音を吐いている。
それだけ限界だった。
車寄せへ向かう間も、レオの呼吸はどんどん荒くなっていく。
本能が暴れている。
噛みつきたい。
囲いたい。
抱きしめたい。
番を閉じ込めたい。
狼の欲求が次々と脳を焼いていく。
それでも。
その全てに、レオ自身が抗っていた。
「……ゆい」
「うん?」
「……ごめん」
唯衣は目を見開く。
レオは苦しそうに眉を寄せたまま、唯衣の手を握った。
熱い。
震えている。
「……身体、おかしい」
「うん……」
「……お前しか触りたくないのに」
掠れた声。
「……違う匂いが、頭に入ってくる」
唯衣の胸がぎゅっと痛んだ。
レオは戦っている。
本能と。
薬と。
自分自身と。
全部と。
その時だった。
後ろから20代後半ぐらいの黒いスーツの男性が声をかける。
「車を回しております」
レオは霞む視界のまま相手を確認した。
そして、かすかに息を吐く。
「……お前か」
安堵したように目を閉じる。
「ありがとう。マジで助かる」
だが次の瞬間。
ぐらり。
身体が大きく揺れた。
「レオ!」
唯衣が慌てて抱き留める。
重い。
熱い。
狼の覇気が制御できないほど漏れ出している。
黒スーツの男の背で黒い羽が無意識に広がった。
危険。
本能が警告している。
このままでは、レオの発情が完全に暴走する。
男は低い声で告げた。
「あなたは少し離れてください」
「でも……!」
「レオ様が限界です」
その言葉に、レオが苦しそうに顔を歪めた。
図星だった。
「……家」
掠れた声。
「……ゆいとの家、帰る」
そこだけは譲れない。
獣人隔離施設でもない。
医療棟でもない。
唯衣の匂いがする場所。
帰る場所。
そこでなければ、きっと壊れてしまう。
唯衣は目に涙をいっぱい溜めながら、震える手でレオの頬へ触れた。
「帰ろう、レオ」
その瞬間。
暴れていた狼の覇気が、ほんの少しだけ静かになる。
まるで、その一言だけを待っていたみたいに。
黒スーツの男は静かに目を伏せた。
そして恭しく一礼する。
「おおせのままに」
扉が開く。
帰るべき場所へ。
傷ついた狼を連れて。




