レセプションパーティ2 レオ挨拶
パーティーの開始を告げる音楽が流れ始めた。
司会者の進行に合わせ、会場の空気がゆっくりと変わっていく。
主催者による挨拶。
続いて、今回のプロジェクトがどれほど困難で、どれほど大きな成果をもたらしたのかが語られた。
発表された内容に、参加者たちの表情が高揚していく。
誰もが、その成功の価値を理解していた。
やがて、
「真壁レオ様、お願いいたします」
壇上へ呼ばれる。
レオは繋いでいた手を離さず、唯衣へ視線を向けた。
「ここで待ってて」
低い声。
「すぐ終わらせて戻る」
そう言って少しだけ身を屈める。
「一歩も動くな」
唯衣が思わず笑う。
「レオ」
「俺だけ見てろ」
さらりと言ったあと、
レオは唯衣の手を取り、その甲へ静かに口づけた。
「……っ」
唯衣の頬が赤くなる。
しばらく見つめ合い、
名残惜しそうに視線を外したレオは、そのまま壇上へ向かった。
壇上のレオは別人のようだった。
堂々とした立ち姿。
迷いのない言葉。
今日集まった人々への感謝。
そして、
人族と獣人族が共に歩む未来のために、今後も尽力すること。
静かで力強い言葉が会場へ響いていく。
その姿を見ながら、
唯衣は少しだけ笑った。
入社した頃の真壁統括を思い出したのだ。
厳しくて。
近寄りがたくて。
でも誰よりも前を見ていた人。
政界からの特別来賓が紹介される。
その名が告げられた瞬間、
会場がわずかにざわめいた。
挨拶。
乾杯。
グラスが触れ合う音。
そしてパーティーは歓談の時間へ移っていった。
しばらくして、
レオが戻ってくる。
なぜか少し不機嫌そうな顔で。
「お疲れ様」
唯衣は笑顔で迎えた。
「レオの挨拶、出会った頃の真壁統括を思い出しちゃった」
「……そうか」
「すごく良かったよ?」
「……」
「レオ?」
「……胸元」
「え?」
「見えすぎ」
唯衣が瞬きをする。
レオは周囲を一瞥した。
「全員見てた」
「そんなことないよ」
「見てた」
即答だった。
「嫌だ」
小さく呟く。
唯衣は思わず笑う。
「レオが一番綺麗に見える角度と面積を計算して作ったんじゃなかった?」
「それとこれとは別だ」
「ふふっ」
そして少し考えるように首を傾げる。
「でもね」
レオが視線を向ける。
「私はレオだけに綺麗だと思ってもらえたらそれでいいよ」
一瞬。
時間が止まった気がした。
「だって」
唯衣は柔らかく笑う。
「おじいちゃんとおばあちゃんになったら、きっと二人で写真を見返すでしょ?」
「……」
「だったら、その時もレオに綺麗だって思ってほしいな」
沈黙。
完全な沈黙。
レオは数秒固まった。
心臓を撃ち抜かれた。
正面から。
容赦なく。
ぴく。
狼耳が出そうになる。
慌てて押さえ込む。
尻尾も危険だった。
危うく出るところだった。
唯衣は気付いていない。
ただ笑っている。
レオは静かに顔を覆った。
「……無理だ」
「え?」
「なんでもない」
なんでもなく… なかった。




