夏 リゾート地へ13 レオの思い
それからの数日間は、 夢みたいな時間だった。
朝焼けの海を2人で眺めたり。
プールで水をかけ合って、 レオが珍しく本気で笑ったり。
夜、 テラスで星を見ながら、 そのまま眠ってしまった日もある。
レオのカメラとドローンには、 たくさんの“わたしたち”が残っていた。
笑っている顔。
手を繋いで歩く姿。
夕焼けの中、 キスをした瞬間。
その全部を、 レオは宝物みたいに保存していた。
気づけば、 旅行はもう最終日だった。
最終日朝の海も、 どこまでも静かだった。
水平線の向こうから昇る光が、 ゆっくり世界を染めていく。
唯衣はバルコニーで、 温かいコーヒーを片手に海を眺めていた。
この数日間。
笑って。 はしゃいで。 抱きしめられて。
夢みたいに幸せだった。
終わってほしくない。
そう思ってしまうくらいに。
「……唯衣」
後ろから、 レオの声がした。
振り返ると、 レオが静かにこちらを見ている。
白銀の髪が朝日に透けて、 少しだけ眩しかった。
「どうしたの?」
そう聞くと、 レオは少しだけ困ったみたいに笑う。
次の瞬間。
真剣な顔になった。
その空気に、 唯衣も自然と姿勢を正す。
レオはゆっくり近づいて、 唯衣の前へ立つ。
「……ずっと考えてた」
低い声。
「本当は、もっとちゃんとした形で言うべきなんだと思う」
「年齢のことも、これからの仕事も、お前の未来も」
静かな海風が吹く。
レオは少し視線を落として、 小さく息を吐いた。
「獣人と人族は、子どもができにくい」
唯衣は静かにレオを見る。
「そもそも、族をまたいで恋愛するやつ自体少ない」
「文化も違うし、生き方も違うからな」
レオは苦く笑った。
「だから、本当は、お前にはもっと普通の幸せがあるのかもしれないって、何回も考えた」
その声は、 少しだけ苦しそうだった。
「俺を選ぶってことは」
「お前の未来を狭めることになるかもしれない」
「後悔させるかもしれない」
唯衣の胸が、 ぎゅっと痛くなる。
でも、
レオはゆっくり顔を上げた。
薄い水色の瞳が、 まっすぐ唯衣を見る。
「……それでも」
「俺は、お前じゃないと無理なんだ」
その瞬間。
レオはポケットから、 小さな箱を取り出した。
開かれた箱の中には、 月の光みたいに静かに輝く金の石の指輪。
唯衣の呼吸が止まる。
「お前ともっと未来を作りたい」
レオの声が、 少し震えていた。
こんな完璧な人でも、 怖いと思うんだ。
失うことが。
拒絶されることが。
「ずっと俺の側にいてくれ」
「唯衣」
「愛してる」
朝の光の中。
波の音だけが静かに響いていた。




