夏 リゾート地へ9 2人でシャワー
たくさんプールで遊んだあと、 2人でシャワールームへ入る。
今回の旅行で、 お風呂と水遊び後のシャワーは “一緒に入る” とレオに約束させられていた。
もちろん、 唯衣は最初かなり抵抗した。
だから条件付きだ。
「……電気、暗くして」
恥ずかしそうにそう言うと、 レオは少し困った顔をした。
「真っ暗はダメだ」
「なんで?」
「転んだら危ない」
ものすごく真面目な理由で怒られた。
結局、 間接照明だけを残した、 薄暗い空間が妥協点になった。
柔らかな灯りの中、 濡れた髪から雫が落ちる。
シャワーの音だけが静かに響いて、 昼間あれだけ騒いでいた時間が、 嘘みたいに穏やかだった。
レオは、 まるで壊れ物を扱うみたいに、 唯衣の髪を優しく洗ってくれる。
「目、閉じて」
低い声。
温かい指先。
優しく頭を支える手。
その全部が心地よくて、 唯衣は少しだけ目を細めた。
立ったまま洗ってくれるレオに少しもたれながら、後ろから洗ってもらう。
「唯衣、下の方洗いたいから頭さげれる?
背中はもたれたままでイイよ。そう、頭だけ下げて。」優しく誘導される。
今回の大型プロジェクトで、 レオがどれだけ頑張っていたのか、 誰より近くで見ていた。
眠そうな顔。
深夜まで光るPC。
いつもより増えた疲労。
だから、 この旅行くらい、 どんなわがままも叶えてあげたいと思った。
「唯衣」
「ん?」
「今日、すごく楽しい」
その声が、 少しだけ子供みたいで。
唯衣は思わず笑ってしまう。
「うん。わたしも。楽しい。幸せだよ」
次は、レオの髪だ。
「レオ、座って」
レオは身長が高いから、 シャワーチェアへ座ってもらう。
唯衣はその後ろへ座り込み、 レオの背中へ身体を預けるみたいな姿勢で、 泡立てた髪へ指を通した。
白銀の髪は、 濡れると少しだけ色が深くなる。
「……気持ちいい?」
唯衣が覗き込むみたいに聞くと、 レオは少し目を細めた。
「ん……」
低く、 気の抜けた声。
その瞬間。
ぴく。
白い耳が、 髪の間から飛び出した。
「耳出てきた!」
唯衣の顔がぱっと明るくなる。
「よかった!力加減いいみたい!」
嬉しそうに笑いながら、 ふわふわの耳へそっと触れる。
耳、 ぴくぴく。
さらに。
しっぽ、 高速ふりふり。
「かわいい……!」
唯衣は完全に夢中だった。
自分が何も身につけていないことなんて、 もうすっかり忘れている。
耳を撫でたり、 しっぽを触ったり。
……いや。
本人はたぶん、 ちゃんと“洗ってあげてる”つもりなのだ。
レオは数秒、 黙って耐えていた。
でも。
限界だった。
「……唯衣」
低い声。
振り向いたレオの瞳は、 もう金色へ変わり始めている。
熱を含んだ視線。
吐息も少し乱れていた。
「夜、覚悟しとけよ」
その声に、 唯衣はようやく状況を理解する。
「あっ……」
完全に、 大型狼を覚醒させてしまったらしい。




