夏 リゾート地へ5 プライベートジェット
フライトの時間になり、 そのまま搭乗ゲートへ向かった。
……と思ったら。
案内されたのは、 普通の搭乗口ではなく、 専用エリアだった。
「え?」
思わず立ち止まる。
その先に停まっていたのは、 白い機体のプライベートジェット。
「レオ?」
「移動時間もゆっくりしたかった」
さらっと言うけど、 スケールがおかしい。
機内へ入ると、 中はホテルのラウンジみたいだった。
広いソファ。 柔らかい照明。 静かな空間。
三時間ほどのフライトらしい。
飛行機が安定飛行へ入ると、 レオは自然な動作で私を抱き上げた。
「きゃっ」
軽々と。
まるで壊れ物を扱うみたいに、 背中と膝裏を優しく支えられる。
そのまま横向きで、 レオの膝の上へ。
気づけば、 私は彼の胸の中へすっぽり収まっていた。
「レオ……?」
「ん?」
「恥ずかしいよ……」
少し照れながら言うと、 レオは静かに目を細めた。
「かわいい」
即答。
しかも真顔。
そのあと、 さっきの小さなカメラを取り出す。
カシャ。
柔らかいシャッター音。
「えっ、撮った?」
「撮った」
また一枚。
今度は、 レオの胸に収まってる私ごと、 窓の外の青空まで写しているらしい。
「ちょっと待って、心の準備が……」
「大丈夫」
レオはカメラを覗きながら、 静かに笑った。
「今の唯衣、すごく幸せそうだから」
その言葉に、 胸が少し熱くなる。
するとレオは、 撮ったデータを軽く確認して、 満足そうに目を細めた。
「ちゃんと残った」
「……何が?」
「今の空気」
低い声。
「唯衣が俺に抱きついて、 安心して笑ってる感じ」
その言い方が、 あまりにも優しくて。
私は少し照れながら、 レオの胸へ顔を埋めた。
するとすぐ、 またシャッター音がした。
「レオ!」
「今のもかわいい」
レオが悪びれもなく言う。
「わたしもレオ撮りたい」
唯衣は、 レオの手の中にある小さなカメラへ手を伸ばした。
「わたしも、今のレオ残したいから」
その言葉に、 レオの目が少しだけ柔らかくなる。
数秒考えたあと、 小さく笑った。
「……じゃあ、2人で映ろう」
レオは唯衣を抱き寄せたまま、 カメラを少し離す。
窓の外には青空。
機内へ差し込む柔らかな光。
カシャ。
優しいシャッター音が響いた。
「ねぇ、レオ」
「ん?」
「未来のわたしたちって、今のわたしたち見て何て言うと思う?」
するとレオは、 少し考える素振りをしてから、 真顔で答えた。
「……さあ」
「俺のことだから、今の俺に嫉妬してるんじゃねぇ?」
「え?」
「“俺の唯衣に触るな”とか言ってそう」
あまりにもレオらしい返答で、 唯衣は一瞬ぽかんとする。
でも次の瞬間、 ありえそうすぎて吹き出してしまった。
「ふふっ……!」
「たしかに言いそう」
レオは、 そんな唯衣を見ながら満足そうに目を細めた。
たぶんこの人、 未来でも変わらない。
ずっと、 同じ顔で好きって言う。
「未来のわたしたちも」
唯衣はレオの肩へ頬を寄せながら、 嬉しそうに笑った。
「幸せだったらいいな」
その言葉に、 レオは静かに唯衣の髪へキスを落とす。
「なるよ」
迷いのない声。
「俺がそうする」
その返事が、 あまりにも真っ直ぐで。
唯衣はまた、 少しだけ泣きそうになった。




