夏 リゾート地へ3 出発
旅行当日。
驚くほど、 手ぶらでの出発だった。
荷物は事前にマンションのコンシェルジュが預かり、 現地まで配送してくれるらしい。
空港までは、 専用のハイヤーが用意されていた。
「……なんか、すごいね」
思わずそう呟くと、 レオはさらりと返す。
「移動で疲れたくないだろ」
たぶん、 こういうのがこの人にとっては普通なのだ。
レオは当然みたいにエスコートして、 後部座席のドアを開けてくれる。
乗り込むと、 かなり広めの車内。
なのに。
レオはぴったり隣に座った。
肩が触れる距離。
広さ、 たぶん意味ない。
唯衣は思わず吹き出す。
「レオ、もっと広く使えるよ?」
「ここがいい」
即答。
しかも今日は、 終始機嫌がいい。
理由は、 たぶん水着。
結局、 五着も買った。
「選べなかった」
と真顔で言っていたけど、 たぶん全部見たかっただけだ。
しかもレオ、 わたしの水着姿を誰にも見せたくなかったらしい。
結果。
宿泊するフロア全体と、 プールまで貸し切っていた。
「……そこまでする?」
唯衣が呆れ半分で聞くと、 レオは当然みたいな顔で答える。
「唯衣、絶対見られる」
「いや、見ないよ?」
「見る」
真顔。
断定。
しかも少し不機嫌そう。
「だから対策した」
フロアーを貸切ることは唯衣を守ることらしい。
レオがそれでいいならと唯衣は微笑んで
「いつも守ってくれてありがとう」とお礼のキスをした。
空港へ向かう車内で、 レオが今回の旅行プランを見せてくれた。
驚くほど綿密に練られた工程。
移動。 休憩。 食事。 景色。
その全部に、
“わたしを喜ばせたい”
という気持ちが、 これでもかというくらい詰め込まれていた。
見た瞬間。
胸がいっぱいになって、 気づけば泣きながらレオに抱きついていた。
レオは、 何で泣かれているのか分からないらしい。
少し困ったみたいに目を瞬かせながら、 でもすぐに、 優しく抱きしめ返してくれる。
その大きな手が、 すごく温かかった。
「レオが……すごく忙しかったの、知ってたから……」
言葉が上手くまとまらない。
「本当は……すごく楽しみで……初めてだし……」
「うん」
「ずっと一緒に……今も一緒にいるけど……」
「うん、うん。大丈夫」
レオは、 落ち着かせるみたいに背中を撫でてくれる。
「無理させてるかも、とか……思っちゃって……」
「……うん」
「言えなかったのに……レオも楽しみにしてくれてて……わたしと、一緒にいたいって……」
するとレオは、 少しだけ笑った。
「思ってるよ」
低くて優しい声。
「たぶん、唯衣よりはるかに大きくね」
その言い方が、 なんだかレオらしくて。
涙が止まらなくなる。
「あきらめてたの……行けるだけで充分だって……」
「なのに、こんなに……いっぱい考えてくれてて……」
唯衣はレオの服をぎゅっと掴んだ。
「ありがとう……!」
「大好きなの、レオ」
「貴方が、大好き……!」
その瞬間。
レオの抱きしめる力が、 少しだけ強くなった。
しばらく黙っていたあと、 耳元で小さく呟く。
「……旅行、楽しみにしてたの」
「俺だけじゃなかったんだな」
その声が、 少しだけ嬉しそうで。
私はまた、 泣きながら笑ってしまった。




