夏 リゾート地へ2
なんとかプロジェクトは軌道に乗ったようだ。
ここ数日、 フロア全体の空気も少し軽い。
誰かが大きく息を吐く音が増えて、 みんな少しだけ笑う余裕が戻ってきていた。
旅行の出発まで、 あと二日だった。
最近のわたしは、 仕事の合間に旅行準備を進めている。
そんな中、 千景さんから旅行のアドバイスを色々もらった。
でも、 内容がなかなか独特だった。
『出来るだけつばの大きい帽子を被ること』
『統括から絶対離れないこと』
『現地で道を聞かれても無視』
『ホテルの場所を聞かれても答えない』
『携帯は持ってませんで通す』
わたしはメモを取りながら、 ずっと頭の上に「?」を浮かべていた。
……そんなに危険な場所へ行くんだっけ?
家に帰ってから、 そのメモをレオに見せる。
するとレオは、 一通り目を通したあと、 静かに頷いた。
「橘、出世確定」
「えっ」
「理解度高い」
真顔。
唯衣、 さらに混乱する。
「いや、どういう意味?」
するとレオは当然みたいに言った。
「唯衣、絶対ナンパされるから」
「……へ?」
「だから事前対策」
その瞬間、 全部繋がった。
千景さん、 たぶん最初からこれを想定していたようだ。
「わたし、ナンパなんてされたことないよ!」
唯衣は思わず反論した。
まるで自分がすごくモテるみたいな前提で話す、 レオと千景さん。
その誤解をどうにか解きたい。
するとレオは、 少し呆れたみたいに息を吐いた。
「……唯衣は自分を分かってない」
真顔。
しかも、 “何も間違ってませんが?” みたいな顔をしている。
「納得いかないなぁー……」
唯衣はソファに沈み込みながら小さく唸った。
でも、 千景さんにはいつもお世話になっている。
せっかく色々考えて教えてくれたのだ。
だから、 とりあえずちゃんと守ろうとは思った。
帽子も被る。 離れない。 知らない人についていかない。
……なんだか小学生みたいだけど。
するとレオは、 そんな唯衣を見ながら少しだけ笑った。
「まあ」
そのまま自然に腰を引き寄せる。
「俺が唯衣を一人にさせるわけないが」
低い声。
当たり前みたいな言い方。
唯衣は思わず瞬きをした。
レオにとって、 “守る”は特別なことじゃない。
呼吸みたいに自然なのだ。




