第五統合生活支援事業部2
最近、妙なことが続いていた。
作成途中だった資料が消えている。
提出予定だったデータが移動されている。
共有フォルダの権限が書き換わっていたこともあった。
「……あれ?」
唯衣は首を傾げる。
自分のミスだろうか。
確認不足?
保存忘れ?
そう思って何度も見直す。
でも。
少しずつ増えていく。
ロッカーへ入れられた無言のメモ。
“統括に媚びて楽しい?”
書類へ付いた不自然な折り目。
遠くから聞こえる笑い声。
唯衣は気付かないふりをした。
レオへ言えば、きっと大事になる。
そんな気がしたから。
「唯衣ちゃん」
ある日の昼休憩。
千景が隣へ座る。
「最近、なんかされてない?」
「えっ?」
唯衣は慌てて笑った。
「だ、大丈夫です!」
その顔を見て、千景は確信する。
ああ、これ。
統括に絶対知られたら駄目なやつだ。
でも。
もう遅かった。
第五統合統括管理官、真壁レオ。
彼はとっくに全部把握していた。
ログ。
監視記録。
アクセス履歴。
削除時間。
誰が、いつ、どこで、何をしたか。
全部。
その日の夜。
第五統合の空気は異様だった。
「……なんか今日、統括怖くない?」
「いや、静かすぎる」
「逆に怖い」
各課へ大量の修正通知が飛ぶ。
会議室予約が急に変更される。
複数人へ面談通知。
そして翌日。
数名の女子社員が、統括室へ呼び出された。
重い空気。
静かな部屋。
レオはいつものように整ったスーツ姿で座っている。
表情は穏やかだった。
それが逆に怖い。
机の上へ、薄いタブレットが置かれる。
「確認したいことがある」
低い声。
逃げ道のない声。
タブレットへ表示されるログ。
アクセス履歴。
削除時間。
改ざん記録。
女子社員たちの顔色が変わった。
「これ、偶然だと思うか?」
静か。
怒鳴らない。
でも空気が冷たい。
「第五統合のセキュリティを甘く見ない方がいい」
レオは淡々と続ける。
「業務妨害。情報管理違反。コンプライアンス抵触」
一切、唯衣の名前を出さない。
私情に見せない。
完全に“仕事”として裁いている。
それが余計に怖かった。
「処分は人事へ回す」
女子社員の一人が震える声を出す。
「し、白石さんが言ったんですか……?」
その瞬間。
空気が変わった。
レオの目が、ゆっくり上がる。
「……白石は何も言ってない」
低い声。
静かな怒気。
「だからオレが動いた」
全員の背筋が凍る。
その頃。
空間演出課では。
「……あれ?」
唯衣が首を傾げていた。
消えていたデータが全部戻っている。
共有権限も正常。
しかも最近、自分へ妙に優しい人までいる。
「なんか平和になりましたね〜」
呑気に笑う唯衣の後ろで。
千景は遠い目をしていた。
(統括、容赦なかったな……)




