真壁レオ15 初デート
嬉しすぎて、ほとんど眠れなかった。
五回も服を着替えた。
鏡の前で止まる。
これだと硬すぎる。
いや、こっちは軽すぎる。
「……なんでこんな悩んでるんだ、俺」
人生初だった。
デートの服で悩むなんて。
天気予報も何度も確認した。
気温。
降水確率。
風。
日差し。
全部問題なし。
さらに朝からプレゼントも買ってきた。
重くない範囲。
でもちゃんと喜びそうなもの。
完璧だ。
よし。
今日は唯衣だけのためのデートプラン。
絶対楽しませる。
待ち合わせのカフェに着いたのは、一時間前だった。
早すぎる。
でも落ち着かない。
コーヒーを飲みながら何度も入口を見る。
そして。
「レオ!」
ぱっと店内が明るくなる。
唯衣だ。
「ごめんね、待たせちゃった!」
「……オレも今来た」
嘘だった。
一時間いる。
でも言えない。
「わたしね、楽しみで寝れなかった」
心臓が跳ねる。
「……オレも」
自然と笑っていた。
こんな顔、自分でも知らない。
「どっか行きたいとこある?」
「ううん」
唯衣はふわっと笑った。
「レオといれるだけで楽しいから」
危ない。
耳出る。
レオは反射的に顔を逸らした。
「……俺、車取ってくる」
「一緒に行くよ〜」
「駄目」
即答だった。
「疲れるから。待ってて、ね?」
「そんな遠くに停めてるの?」
「すぐそこのパーキング。でも駄目」
真剣な顔。
唯衣はくすっと笑う。
「ふふ。うん、ありがとう」
その笑顔を見届けてから、レオは急ぎ足で店を出た。
早く戻りたい。
その一心だった。
なのに。
「ねえ、お兄さん。一人?」
知らない女が話しかけてくる。
「わたし待ち合わせすっぽかされちゃってさ〜。お茶しない?」
「……」
「ね、お兄さん?」
レオは眉間に皺を寄せた。
「は? あんた誰」
空気が一瞬で凍る。
「話しかけんな」
そのまま歩き去る。
ちっ。
最悪だ。
せっかく機嫌良かったのに。
イライラしながら車へ向かう。
でも。
店へ戻り、唯衣の顔を見た瞬間。
全部どうでもよくなった。
「レオ!」
駆け寄ってくる。
その瞬間、レオの機嫌は完全に回復した。
本人は気付いていない。
助手席のドアを開く。
当然のようにエスコートする。
唯衣が嬉しそうに乗り込む。
それだけで、今日が成功確定みたいな気分になった。
夏の植物園。
今はひまわりが見頃だった。
一面の黄色。
陽射し。
風。
その中を二人でゆっくり歩く。
唯衣が花を見るたび表情を変える。
レオはその横顔ばかり見ていた。
写真もたくさん撮った。
もちろん全部保存する。
むしろバックアップも取る。
帰ったら整理する。
もっと高性能のカメラを開発しなければ。
コーヒーとカフェラテを買って、ベンチへ座る。
静かな時間。
でも心地いい。
唯衣が隣にいるだけで、世界が穏やかだった。
レオはそっと隣を見る。
陽の光を浴びて笑う唯衣が、綺麗すぎて。
思わず目を細めた。
「……好きだな」
ぽつりと漏れた本音は。
風に紛れて、唯衣には届かなかった。




