これから3
それからの日々は慌ただしかった。
けれど
不思議と幸せな忙しさだった。
まず
わたしもレオも円満退社した。
たくさんの人に祝福され、
たくさんの人に送り出されて。
新しい人生へ踏み出した。
そして
《NEXUS PROJECTS》は
真壁コーポレーションの傘下へ入り、
正式に子会社となった。
レオが北米で築き上げたもの。
真壁家が積み重ねてきたもの。
その全てが繋がった結果だった。
これにより、
真壁コーポレーションは
世界第五位の資産企業へ躍進した。
だが
世間が最も驚いたのは、
企業の再編でも経済でもなかった。
わたしの妊娠だった。
人族と獣人族。
決して交わらないとされていた二つの種族。
その間に新しい命が宿った。
しかも双子。
その事実は世界中を駆け巡り、
医学界にも、
種族界にも、
大きな衝撃を与えた。
そして同時に。
希望となった。
種族を超えた絆。
心が繋がることの意味。
今まで不可能だと思われていた未来。
わたしたちの子供たちは、
その新しい時代の
最初の一歩になろうとしていた。
レオといえば。
わたしのベッドの隣へ机を運び込み、
そのまま執務室にしてしまった。
「ずっと側にいる」
そう言い張り、
誰かが止める前に机が運び込まれ、
パソコンが設置され、
通信環境まで整えられていた。
完全なる既成事実である。
もはや誰にも覆せなかった。
景ですら諦めたほどだ。
そして、
真壁家の邸宅は、
今や一つの祭りのような騒ぎになっていた。
ベビー用品のカタログが山積みにされ、
景が連日、
最高級の品々を吟味している。
「やはり、揺り籠は特注がよろしいかと」
「いや、移動のしやすさも考えないと」
使用人たちも皆、どこか楽しげだ。
屋敷に新しい命が宿る。
それだけで、空気が温かく彩られる。
何よりも変わったのは、レオだ。
レオはビジネスの最前線を走る狼から、
一人の父親の顔になっていた。
深夜。
月の光が差し込む寝室で、
彼はよく小さな靴下を手に取って眺めている。
「唯衣。小さすぎて壊れそうだな」
少し不安げに呟くその横顔。
そのたび、わたしはレオに寄り添う。
世界中が私たちをどう見ようと、
関係ない。
種族の壁も、
常識も、
この幸せの前では無力だ。
二つの命が、
私たちをさらに強くしてくれる。
「幸せだね」
「あー」
「気分はどうだ?」
「ふふふ、大丈夫だよ」
「いつもありがとう」
わたしはそっとレオに抱きついた。
この温もりと匂いが
包んでくれてる事実が
一番安心するから。
妊娠も順調に進み、
5ヶ月が過ぎた辺りから
急激に大きくなり、
泰山先生曰く
あと二ヶ月もすれば
生まれてきても大丈夫と
お墨付きを頂いた。
あとはゆっくり過ごし
子供たちが元気に出てくるのを
待つばかりだ。
ただ一つ。
少しだけ困ったことがあった。
お腹の子供たちの覇気が異常に強いらしい。
時折、胸が苦しくなる時がある。
そんな時
真っ先に気付くのはレオだった。
「唯衣」
「大丈夫か?」
レオはすぐに側へ駆け寄ってくれる。
そして
そっとお腹へ手を当てた。
「唯衣が苦しそうだ」
真剣な声で言う。
「少し覇気を落とせ」
相手はまだ生まれてもいない子供だ。
だが
不思議なことに。
その言葉の後、
苦しさは少しずつ和らいでいく。
「……楽になった」
ほっと息を吐く。
レオも安心したようにお腹を撫でた。
「良い子だ」
そう呟く姿は、
もう誰が見ても父親だった。
「レオ、ありがとう」
「あなたたちもありがとう」
わたしもそっとお腹を撫でた。




