これから2
唯衣が寝ているベッドを囲むように
椅子が配置された。
玄狼。
その後ろには景。
泰山と雫。
そして唯衣のすぐ側にはレオが座っている。
全員の視線が泰山へ向けられた。
「何も難しいことはない」
泰山がにっこり微笑む。
「結論から言えば」
「唯衣様が獣人族へ近づき、
その結果として子を宿した」
「それだけの話じゃ」
唯衣が目を瞬かせる。
玄狼も腕を組んだまま聞いている。
「もっとも」
泰山が顎髭を撫でた。
「人族が獣人族へ変化するなど、
医学的にはありえん」
「少なくとも、わしは聞いたことがない」
「わたくしも文献では見たことがありません」
雫も真面目な顔で伝えた。
「じゃが」
泰山の目が細くなる。
「現実に起きておる」
「そして一番考えられる原因は」
「若様の獣神化じゃろうな」
部屋が静まり返る。
「獣神化によって若様そのものが変質した」
「その影響を最も近くで受け続けたのが
唯衣様じゃ」
泰山はゆっくり続けた。
「もともと魂で結ばれておった二人じゃ」
「そこへ本能の繋がりまで加わった」
「そう考えるのが一番自然じゃろう」
そして
泰山はレオへ視線を向けた。
「若様」
「何か思い当たることはございませんかな?」
レオは少し考えた。
「正直」
「唯衣が人族から離れていくような変化は
何度も感じていた」
全員が耳を傾ける。
「特に繋がりが強くなる時だ」
「唯衣の匂いが変わった」
レオは真っ直ぐ答えた。
「番を彷彿とさせる匂いを
感じるようになった」
沈黙。
唯衣の顔が一瞬で赤くなる。
「レオ!」
思わず抗議の声を上げる。
だがレオは真面目だ。
「事実だろう」
「事実ですけど!」
唯衣は慌てて布団を引き上げた。
サイドベッドにもたれていた身体を
隠すように、
目元の下まで布団を持ち上げる。
恥ずかしくてたまらない。
そんな唯衣を見て、
雫が口元を押さえる。
景は無言で視線を逸らした。
「ふぉっふぉっふぉっ」
「仲が良いのは大変結構じゃ」
泰山だけが楽しそうに笑っていた。
「大切なのはこれからじゃ」
泰山が全員を見回した。
「母体と腹の子たちをどう見守るか」
「母子ともに無事出産まで迎える」
「それが今後のミッションじゃな」
全員が真剣な表情で頷く。
すると玄狼が口を開いた。
「雫を専属で付けよう」
「はい」
雫が背筋を伸ばす。
「景」
「我が家の医療班で専属チームを作れ」
「かしこまりました」
景も静かに頷いた。
玄狼は今度はレオを見る。
「レオ」
「お前はどうする?」
レオは少し考えた。
だが答えは決まっていた。
「会社には相談する」
「だが北米は辞任する」
唯衣が驚いてレオを見る。
玄狼は静かに頷いた。
「うむ」
「それが良かろう」
そして
どこか楽しそうに笑う。
「どうだ?」
「そろそろ、
うちの会社を助けてはくれぬか?」
昔なら
レオが最も嫌った言葉だった。
敷かれたレール。
後継者。
真壁家の跡取り。
だが今は違う。
レオはニヤリと口角を上げた。
「今の倍以上の資産を形成してやるよ」
玄狼の眉が上がる。
景も少しだけ目を細めた。
「その代わり」
レオは隣の唯衣を見る。
「嫁がいいと言えばだ」
堂々と言い切った。
そして胸を張る。
「うちはかかあ天下だからな」
一瞬の沈黙。
「えっ?」
布団を目深に被っていた唯衣が
ひょこっと顔を出す。
「わたし?」
レオは真顔で頷いた。
「そうだ」
「違います!」
唯衣が即座に否定する。
「うちは亭主関白です!」
「レオ!」
「誤解されるような言い方やめて!」
涙目で抗議する唯衣。
だが
玄狼は吹き出した。
泰山も笑っている。
雫は肩を震わせていた。
「どちらでもよろしいのでは?
お二人ともお幸せそうで何よりです」
景が微笑みながら伝えた。
その瞬間
部屋中が笑いに包まれた。




