唯衣倒れる3
どんっ!
大きな音が響いた。
思わず音のした方を見る。
そこには。
尻もちをついた玄狼がいた。
目は見開かれ。
口はあんぐりと開いている。
しかも獣人化していた。
「ま、まことか?! 泰山!」
「長、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」
「よい! よい!」
玄狼はぶんぶんと手を振った。
「そんなことはどうでもよい!」
「唯衣の懐妊は事実かと聞いておる!」
「はい」
泰山は深く頷く。
「事実でございます」
「元気な魂も二つ確認しております」
玄狼の耳がぴんと立つ。
「そんな事例、聞いたことがないぞ」
「はい」
泰山も苦笑した。
「わたくしめも初見にございます」
二人が事実確認を続ける中。
レオだけが固まったままだった。
景がそっと様子を窺う。
「若」
反応はない。
「若様」
やはり反応はない。
景は静かに結論を出した。
「目を開けたまま気絶しておられます」
寝室が静まり返る。
景はレオの目の前へ移動すると、
パチン。
指を鳴らした。
「はっ!」
レオの意識が戻る。
「若」
「大丈夫ですか?」
景が尋ねる。
レオは数回瞬きをした。
そして。
「……すまない」
小さく呟く。
「ちょっと外の風に当たってくる」
ふらりと立ち上がる。
足取りは覚束ない。
普段なら絶対に見せない姿だった。
誰も止めない。
いや。
止められなかった。
双子だ。
しかも。
唯衣の腹の中にいる。
レオの背中はその事実に追いつけないまま、
ゆっくりと寝室を出ていった。
「ひとまず皆さま、
お茶でも召し上がりませんか?」
景が静かに声を掛けた。
「先生にはタピオカミルクティーを
ご用意させて頂きます」
「おお!」
泰山の耳がぴくりと動く。
「気が利くのう」
混乱する部屋の中で、
景だけはいつも通りだった。
「紅葉、小雪」
「しっかりなさい」
呼ばれた二人が慌てて背筋を伸ばす。
「唯衣様をお任せしましたよ」
「何か変化があればすぐに報告を」
「あ、はい!」
「かしこまりました!」
声は震えていた。
二人とも涙を堪えきれていない。
無理もない。
唯衣の懐妊。
しかも双子。
真壁家にとって大きな慶事だった。
景はそんな二人を見つめると、
そっと頭を撫でた。
「よく頑張りました」
その一言で、
紅葉の目からぽろりと涙が零れる。
小雪も慌てて目元を押さえた。
景は優しく微笑む。
「引き続き、唯衣様をお願いいたします」
「「はい!」」
力強い返事が返ってくる。
それを確認すると、
景は静かに一礼し、
そして部屋を後にした。




