朝比奈陽向1
「よし!」
俺は気合いを入れて出勤した。
ちゃんと気持ちを整理するんだ。
初恋から失恋まで。
たぶん世界最速なんじゃないかと思う。
あの日は朝方まで、
同期の神谷陸と呑んでいた。
呑んで、呑んで、呑んで。
それでも全然酔えなかった。
「それって、恋ってやつじゃねー?」
陸にそう言われた時は、
正直驚いた。
恋? 恋って……俺が?
真壁先輩に?
種族が違えば惹かれ合わない。
それが当たり前だと思っていたから。
今まで恋なんてしたことがなかった。
彼女すらできたことがないのに。
「だって陽向、先輩の話をするときさ」
陸は笑いながら言った。
「男の俺から見ても良い顔してるぜ」
その言葉で、
妙に納得してしまった。
あぁ、俺、好きだったんだ。
導入研修で話しかけられた時も、
一緒に仕事をした時も、
先輩が笑った時も。
気付かないうちに、
ずっと目で追いかけていたんだ。
恋なんて知らなかったから、
好きになっていたことにさえ
気付かなかった。
そして、
気付いた時にはもう終わっていた。
「ははっ……」
思わず笑いが漏れる。
恋って、なんか苦しいや。
「真壁先輩、ちょっと時間欲しいッス」
俺は真壁先輩のデスクで、
思い切って声を掛けた。
「いいよ! もちろん」
先輩が顔をあげる。
優しいな。
笑顔がかわいい。
「10時から会議があるの。お昼でいい?」
「あざっす! 」
「会議終わったら連絡欲しいッス!」
「うん、終わったら連絡するね」
そう言って席を離れる。
めちゃくちゃ緊張した!
手汗びっしょりだ……。
でも、マジで嬉しい!
頑張ってよかった。
思わず口が緩む。
よし、
今日の仕事は午前で片付ける。
真壁先輩との時間を確保するんだ!
お昼、
会社の外で待ち合わせをした。
ランチはイタリアン。
落ち着いた雰囲気の隠れ家的な店で、
人気も高いらしい。
もちろん俺が探したわけじゃない、
陸が手配してくれたものだ。
俺はあのあと最速でメッセージを送った。
『緊急連絡』
『真壁先輩と昼飯行けることになった』
『店頼む!』
『今すぐ! オシャレで落ち着いてて、
会社から近くて、味も最高レベルの店を!』
数分後には、
店の地図と予約画面、
そして一言が返ってきた。
『お前、必死すぎ』
あいつは神か。
持つべきものは同期だ。
俺は先に店へ入り、
案内された席へ座る。
水を一口飲んだ。
喉がカラカラだ。
落ち着け、ただのランチだ。
そう自分に言い聞かせる。
無理だった。
落ち着かない。
心臓がうるさい。
ふと、
何気なく入口へ視線を向けた。
その瞬間、真壁先輩が店に入ってきた。




