幸せの続き1 真壁唯衣
カーテンの隙間から
朝の光が差し込んでいる。
窓を少し開けているのか、
風が気持ちいい。
久しぶりにぐっすり眠れた。
そんな感覚と一緒に目を覚ました。
「起きた?」
聞き慣れた声。
視線を向けると、
レオがベッドサイドのテーブルで
仕事をしていた。
パソコンを開き、
何か資料に目を通している。
その姿が妙に懐かしい。
「おはよう」
唯衣が微笑む。
レオは席を立つと、
自然な仕草で額へキスを落とした。
「おはよう」
一緒に暮らしていた頃と同じ朝。
それだけで嬉しくなる。
「橘に連絡してある」
レオが椅子へ戻りながら言った。
「伝言」
「オールクリアーだそうだ」
唯衣は小さく息を吐いた。
よかった……
持ち帰っていた案件
クライアント対応
気になっていた仕事
全部
千景が引き継いでくれたのだと
すぐに分かった。
「今日は休んでいいそうだ」
「明日は十時から会議」
「出席してくれだと」
レオは優しく笑う。
「よかったな」
唯衣も笑った。
仕事の心配はない。
そして
目の前にはレオがいる。
それだけで、 十分幸せ。
「そうだ」
「もし昼前に起きたら
聞こうと思ってたんだが」
レオがパソコンから視線を上げる。
「じぃさんと飯を食う約束してるんだが、
行けるか?」
「大丈夫!」
唯衣は即答した。
「すぐ用意するね」
そう言ってベッドから立ち上がろうとする。
だが
足に力が入らない。
ガクッと膝が震えた。
「……っ!」
「クククッ」
隣でレオが肩を揺らしている。
「笑わないでよ!」
唯衣が頬を膨らませる。
「悪い」
全然悪いと思っていない顔だった。
「紅葉たち呼んでやれ」
「昨日からずっと待ってる」
その言葉で気付く。
昨日はレオが帰ってきたことで
頭がいっぱいだった。
まだ二人に『ただいま』も言えていない。
唯衣はサイドテーブルの呼び鈴を鳴らした。
しばらくしてノックの音。
扉が開く。
入ってきた二人は、
顔いっぱいに笑顔を浮かべていた。
「「若様、唯衣様、おはようございます」」
綺麗に一礼する。
レオは二人へ視線を向けた。
「じぃさんと飯を食う」
「唯衣の支度を頼む」
そして当然のように続ける。
「足が立たないから部屋までは俺が運ぶ」
唯衣が顔を真っ赤にした。
「レオ!」
「事実だろ?」
レオは平然としている。
さらに
「準備ができたら呼びに来い」
「俺が食堂まで運んでエスコートする」
「「かしこまりました」」
紅葉も小雪も全く驚いた様子はない。
むしろ当然のように頭を下げていた。
唯衣だけが恥ずかしくて顔を隠した。
準備を終えると、
レオに横抱きにされたまま食堂へ向かう。
「自分で歩けるのに」
そう言ったけれど、
レオの返事は
「ダメだ」
と即答だった。
レオのしっぽが二本ともご機嫌に揺れている。隠す気は全くないらしい。
あまりの嬉しそうな様子が可愛くて、
唯衣は思わず笑みをこぼした。
レオがふと視線を落とす。
「ん?」
不思議そうに首を傾げるその仕草さえ、
たまらなく愛おしい。
はぁ、
幸せだなぁ。
レオがいる。
それだけで、世界の色が鮮やかに変わる。
会いたかった。
ずっと、ずっと会いたかった。
唯衣はそっとレオの首へ腕を回した。
「……帰ってきてくれて、嬉しい」
小さく呟くと、
レオの足が一瞬だけ止まった。
そして、
彼が抱き上げる腕に少しだけ力が込められる。
「俺もだ」
耳元で響く、低く確かな声。
それだけで、胸が熱く満たされていく。




