唯衣の元へ向かう2
心臓が煩い。
四ヶ月ぶりの唯衣だ。
耳も尻尾も落ち着かない。
全身が『会いたい』と言っている。
飛行時間は約十四時間。
東京着は十三時頃か。
ひとまず寝る。
寝れない。
脳内が煩い。
落ち着け。
落ち着け。
まだすぐには会えないんだ。
それにしても。
すぐ会えない距離にいること自体が不合理だ。
今頃、何をしているだろう。
いつも通りなら、 唯衣が寝る時間に電話をする。
帰ってきていることは伏せたまま。
唯衣。
絶対泣くだろうな。
いっぱい抱きしめてやろう。
いっぱい甘えさせてやろう。
匂いもしばらく本物に触れていない。
ちゃんと補充しないと。
こっちで調達したお土産も喜ぶだろうか。
はっ。
俺、浮かれてるな。
レオは小さく息を吐いた。
唯衣。
唯衣。
俺の唯一。
結局。
フライト中、一睡もできなかった。
空港へ到着すると、 景が車を回していた。
「お帰りなさいませ」
「すぐに唯衣のところへ行く」
「承知しております」
後部座席へ身体を預ける。
目を閉じた。
あと一時間。
あと一時間で会える。
待っていて。
「若、到着しました」
景の声で目を開く。
窓の外。
見慣れた第五統合ビル。
帰ってきた。
レオはドアが開く前に車を降りた。
待っていて。
今行く。
会社に入ると人波が割れた。
俺をエレベーターまで誘導するかのように。
そんなことは
微塵も気にしない。
ちらほら見慣れた顔もあったような気がするが……
まぁいい。
52階を押す手が震えていた。
俺、緊張してる?!
「ふぅ、すぅ、はぁ」
こんな事したことがないが、合ってるのか?!
チン
エレベーターが目的地までつく。
唯衣だ。
あれは?誰だ?
犬か。
近いな。
あいつ、唯衣に惚れてる?
昔の俺はもっと強引だったな。
あいつはちゃんと相手を観察できるのか。
俺にはない。
唯衣を抱きしめる。
ここにいる。
それだけで胸がいっぱいになる。
泣きじゃくる唯衣を誰にも見せたくなくて、
俺はそのまま強く抱き締めた。
そして
横抱きにする。
「レオ?」
「帰るぞ」
有無を言わせない。
四ヶ月だ。
もう十分待った。
そのまま唯衣を抱えたまま車へ向かう。
車に乗り込んでからも離さない。
ゼロ距離のまま。
唯衣はレオの胸へ顔を埋めていた。
しばらくして。
泣き腫らした目がゆっくり上を向く。
「れぉ……」
しゃくり上げながら。
「おかぇりぃ……」
レオは優しく目を細めた。
「ただいま、唯衣」
そっと唇を重ねる。
触れるだけの短いキス。
それなのに。
唯衣は嬉しそうにもう一度顔を寄せてくる。
もう一度。
そしてまたもう一度。
レオは全部受け止めた。
四ヶ月分だ。
拒否する理由がない。
抱き締める腕に少しだけ力を込める。
やっと帰ってきた。
屋敷へ到着する。
レオは横抱きのまま車を降りた。
使用人たちが並んでいる。
「しばらく部屋には入るな」
即座に指示を出す。
「食事は軽めのものを用意しておけ」
「まず風呂に入る。その間に頼む」
全員が一斉に頭を下げた。
「承知いたしました」
レオは頷く。
そして景へ視線を向けた。
「景」
「じぃさんへの挨拶は明日以降にする」
「まずは唯衣だ」
迷いがない。
景は小さく笑った。
「かしこまりました」
そして静かに頭を下げる。
「くれぐれも唯衣様を労りくださいませ」
「言われなくても分かってる」
レオはそう返しながら。
腕の中の唯衣を見下ろした。
まだ少しだけ涙目だった。
だから。
もう一度だけ抱き寄せる。
誰にも渡さないように。
宝物を抱えるみたいに。




