渡せなかったお土産2
「お前、趣味いいよ」
真壁レオが笑う。
「でも唯衣はダメ」
そう言いながら、
泣き出しそうな真壁先輩を抱き寄せる。
「俺のだから」
余裕の笑みだった。
完敗だ。
チャンスを掴めなかった俺の負け。
……いや。
そもそも勝負の土俵にすら
上がっていなかったのかもしれない。
周囲がざわついている。
けれど誰も邪魔をしない。
まるで映画のエンドロールを
見ているみたいだった。
きっと。
俺の知らない時間がある。
俺の知らない思い出がある。
俺の知らない積み重ねがある。
それだけ二人は長い時間を一緒に
歩いてきたんだろう。
くそっ。
泣くもんか。
真壁先輩は
しゃくり上げながら泣いている。
その顔を隠すように、
真壁レオは優しく抱き締めていた。
見ているだけで分かる。
あの人は本当に真壁先輩が好きなんだ。
「お前、カッコいい」
突然そう言われた。
正直。
こんなすげぇ人に言われても、
今は心が泣くだけだ。
「あ、あざーす……」
情けない声が出る。
これ以上ここにいたらダメだ。
絶対泣く。
「あっ、俺、用事あるんで!」
逃げるように背を向ける。
そして走った。
くそっ。
泣くもんか。
何もしなかったのは俺だ。
勇気が出なかったのも俺だ。
だから。
これは俺の負けだ。
走りながらスマホを取り出す。
連絡先を開く。
迷わず神谷陸を選んだ。
今日は陸と呑む。
絶対呑む。
今すぐ呑む。
午後の業務。
真壁先輩は早退した。
少しだけほっとする。
傷は浅い。
でも。
傷は傷だ。
痛い。
「よし」
小さく呟く。
仕事してやる。
真壁レオを追い抜く。
さっきまでの情けない気持ちを
振り払うように、
パソコンへ向かった。
「おー!」
先輩が声を上げる。
「陽向、CEOに触発されたか?」
周囲が笑う。
だが。
俺は本気だった。
「真壁レオを超えます!」
一瞬。
フロアが静かになる。
そして。
「おおおっ!」
歓声が上がった。
「よく言った!」
「空間演出課のホープ!」
「頼もしいな!」
あちこちから声が飛んでくる。
少しだけ照れた。
その時だった。
橘リーダーが近付いてくる。
ぽんっ。
肩を軽く叩かれた。
「今日は定時で上がっていい」
「え?」
顔を上げる。
橘千景はいつもの穏やい笑みを浮かべていた。
「大丈夫」
「陽向、お前はかっこいいぞ」
その言葉に。
胸の奥がぎゅっとなる。
今日。
同じ言葉をもう一人から言われた。
うっ。
泣かない。
今日は泣かない。
今日は呑んで泣くって決めたんだ。
だから。
ここでは泣かない。
陽向は必死に涙を押し込めながら、
パソコンの画面を睨みつけた。




