週末の二人 真壁唯衣2
しばらく他愛もない話をしたあと、
通話を繋いだまま庭園へ向かった。
新緑が眩しい。
風も心地いい。
庭園はすっかり初夏の装いへと変わっていた。
色とりどりの花々が咲き、
手入れの行き届いた木々が優しく揺れている。
「今日は天気いいな」
画面越しにレオが言う。
「うん!」
「すごく気持ちいいよ」
わたしは嬉しそうに辺りを見回した。
ゆっくり庭園を散歩したあと、
カセボへ辿り着く。
そこには使用人たちが
用意してくれたお茶が並んでいた。
席に腰を下ろし、
紅茶をひと口飲む。
「あっ、そうだ!」
思い出したように声を上げた。
「秘書課コースの初級、合格したの!」
レオの表情が少し明るくなる。
「おめでとう」
「頑張ったな」
その一言が嬉しい。
「まだまだだけどね」
「待ってて」
「必ず上級まで資格取ってみせるから」
わたしは笑った。
「レオと働くの楽しみなんだ」
レオも小さく笑う。
「俺も楽しみ」
その言葉に胸が温かくなる。
「頑張ってる奥さんっていいもんだな」
少し照れながら言われて、
思わず笑った。
レオがかけてくれる言葉は、
不思議と元気が出る。
前に進もうと思える。
「なんだかわたしばっかり
元気になってる気がする」
「レオにも元気になってもらいたいな」
するとレオは迷いなく答える。
「唯衣が元気なら俺はここでやれる」
あまりにも自然な言葉だった。
「お前が俺の源だからな」
初夏の風が静かに吹き抜ける。
わたしは少しだけ頬を染めながら、
照れ隠しのように紅茶へ口をつけた。
カセボで休憩したあと、
紅葉が車の手配ができたことを
知らせてくれた。
唯衣は車へ乗り込む。
向かう先は、
初デートで訪れた高台だった。
あの頃はまだ付き合いたてで。
お互い少し緊張していて。
何を話そうか考えていたことを思い出す。
少しだけ懐かしい。
やがて車が目的地へ到着する。
「唯衣様、到着しました」
紅葉がドアを開けた。
「少し離れて護衛しておりますので、
どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
そう言って一礼する。
「ありがとう」
そっと微笑んだ。
「レオ、着いたよ」
「見えるよ」
画面越しにレオの声が返ってくる。
夕焼けはゆっくりと空の色を変えていく。
オレンジ色だった空が、
少しずつ紫へと溶けていく。
「綺麗だね」
「うん」
レオも頷いた。
しばらく二人は言葉もなく景色を眺めた。
離れていても。
同じ空を見ている。
それだけで不思議と寂しさが
薄れていく気がした。
「やっぱりここ好き」
「だと思った」
レオも当時と同じ返事をしてくれる。
それが嬉しかった。
「来週も頑張るね」
「俺も来週を楽しみに頑張れる」
レオの声が少し柔らかくなる。
風が吹く。
夕方の風はまだ少し冷たい。
「風、冷たいだろ」
「そろそろ帰ろう」
「うん」
車へ向かう道を歩く。
離れているはずなのに、
まるで二人で並んで歩いているような
気がした。
「今日、楽しかったね」
「ああ」
「レオ、眠くない?」
「大丈夫?」
「大丈夫だ」
少し笑ってから、
今度はレオが尋ねる。
「唯衣は疲れてないか?」
「わたしはレオメーター補充されたから
元気です!」
即答だった。
レオが小さく笑う。
「よかった」
やがて屋敷へ到着する。
玄関前で立ち止まり、
最後の挨拶を交わした。
「今日はありがとう」
「楽しかった」
「ゆっくり休めよ」
「また寝る頃に電話する」
「うん!」
嬉しそうに頷いた。
「待ってる」
その言葉を最後に、
通話が切れた。
静かになった画面を見つめながら、
唯衣は小さく微笑む。
寂しい気持ちはある。
それでも
今日はたくさん話せた。
たくさん笑えた。
だから大丈夫。
唯衣はスマートフォンを胸に抱き、
屋敷の中へと足を向けた。




