新入生歓迎会5 二日目
朝の散歩から戻ると朝食の時間だった。
会場には色とりどりの料理が並び、
ビュッフェ形式になっている。
焼きたてのパン
卵料理
新鮮な果物
どれも驚くほど美味しかった。
「ここ、すごいな」
陽向が感心しながら言うと、
「保養地だからね」
向かいに座った同期が答えた。
「申請すれば使えるらしいぞ」
「ただし十人以上じゃないと
食事は出ないんだって」
「へぇ」
そんな話を聞きながら朝食を楽しんでいると、
隣に座っていたひかりが小声で
話しかけてきた。
「ねぇ、陽向」
「ん?」
「今度ここ、一緒に来ようよ」
陽向はフォークを止めた。
「えっ?」
「何で?」
ひかりが一瞬固まる。
「何でって……」
「来たくないの?」
「他のやつと行けばいいじゃん」
陽向は不思議そうに答えた。
「わたしは」
ひかりが少しだけ頬を膨らませる。
「陽向と来たいの」
真っ直ぐな言葉だった。
けれど
「嫌だ」
陽向は即答した。
「行きたくない」
「えぇっ!?」
思わずひかりが声を上げる。
「せっかく誘ってるのに!」
「ケチ!」
「意味分かんない」
陽向は最後のパンを口に放り込んだ。
「早く食えよ」
「そろそろ荷物まとめてくる」
そう言って立ち上がる。
「じゃ」
「お先」
ひらひらと手を振りながら会場を後にした。
残されたひかりは机に突っ伏す。
「なによあいつ……」
「ちょっとくらい考えくれたって
いいじゃん……」
誰にも聞こえないように小さく呟いた。
保養地には、
お土産らしいものは何も売っていなかった。
残念すぎる。
陽向の耳と尻尾がしゅんと垂れ下がる。
少し街へ降りる時間は……
ない。
歓迎会のスケジュールは思った以上に
詰まっていた。
帰りのパーキングエリアで、
また何か探すか。
そう考えていて、 ふと思い出す。
あっ。
ブレスレット買ってあるじゃん。
恋が叶う石。
二つ。
陽向は荷物の中から小さな箱を取り出した。
でも
何となく意味深だよな。
真壁先輩、 結婚してるし。
指先で箱を転がす。
けれど
似合うと思うんだよな。
俺も付けて。
真壁先輩も付けて。
お揃いとか
すげーいいと思うんだけど。
そこまで考えて。
陽向ははっとした。
「いや……」
「それはちょっとマズいかも」
一人で小さく呟く。
思考が行ったり来たりしているうちに、
ロビーの集合時間になっていた。
「おい!陽向!」
突然ドアが開く。
「行くぞ!」
神谷陸だった。
「あっ、ああ!」
「すぐ行く!」
陽向は慌てて手の中の小さな箱を
荷物へ押し込んだ。
恋が叶う石。
二つのブレスレット。
見つからなくてよかった。
そんなことを思いながら、
急いで部屋を飛び出す。
帰りのバスでは、
疲れたのか眠っている人が多かった。
ひかりも。
陸も。
いつの間にか寝息を立てている。
陽向は窓の外を流れる景色をぼんやり眺めた。
歓迎会。
結果的には楽しかった。
湖も綺麗だったし、
料理も美味しかった。
同期たちと過ごす時間も悪くなかった。
だけど
真壁先輩がいたら。
もっと楽しかったんじゃないか。
そんなことを考えながら、
陽向は静かに窓へ額を預けた。




