新入生歓迎会 一日目 真壁レオSide
唯衣と離れて二ヶ月が経った。
仕事は順調だ。
通称NPA。
CEOとしての業務も軌道に乗り始めている。
それでも
家に帰れば寝るだけ。
唯衣のいない生活は驚くほど味気なかった。
そんなある日。
仕事を終えて帰宅し、
リビングの灯りをつける。
「お帰りなさいませ」
「うおっ!?」
思わず飛び上がった。
ソファに景が座っていた。
「お前!」
「来るなら事前に知らせろよ!」
「ビビったじゃないか!」
レオの尻尾が逆立つ。
「それは失礼いたしました」
景は涼しい顔で一礼した。
「お前、絶対思ってないだろ?」
「いえ」
景は即答する。
「心から、次はどう驚かせて差し上げようかと考えております」
「お前、殺す」
「おや」
景は手帳を開いた。
「これで一万三百八回目です」
「何がだよ」
「若様から殺害予告を頂いた回数です」
「数えてたのかよ!」
「もちろんです」
「そういうとこだ!!」
レオは大きくため息を吐きながらソファへ腰を下ろした。
「で?」
「定期報告です」
景は何事もなかったかのように続ける。
「続けろ」
「唯衣様は健やかに、穏やかに
真壁家にてお過ごしです」
その言葉にレオの表情が少しだけ緩む。
「ただ」
景が一拍置いた。
「柴犬族の朝比奈陽向という人物が、
唯衣様へ恋心を寄せている様子」
レオの耳がぴくりと動く。
数秒の沈黙。
そして
「で、唯衣の様子は?」
景は即答した。
「全く眼中にはないご様子です」
レオは静かに息を吐いた。
「そうか」
短い返事。
だが明らかに安心している。
「大丈夫だとは思うが」
「唯衣が傷つくことがあってはならない」
「はい」
「心得ております」
「頼む」
「御意」
そこで景は足元に置いていた
大きな箱を持ち上げた。
「若」
「唯衣様エキスの補充分を
朝倉殿より預かっております」
「何?」
レオの目が輝いた。
景は無言で大瓶を差し出す。
ラベルには乱雑な字でこう書かれていた。
『寝起き』
「朝倉殿からの伝言です」
「今回の匂いは寝起きらしいです」
「確認しよう」
レオは迷いなくスプレーを手に取った。
シュッ。
静かな部屋に音が響く。
数秒後。
「上出来」
満足そうに口角が上がる。
「若」
景が頭を抱えた。
「メイドを買収するのはお止め下さい」
「あいつらは進んで俺に貢献している」
「心配するな」
「褒美もちゃんと与えている」
「というか」
レオは少し笑った。
「あの二人も唯衣にメロメロだからな」
「自ら進んでやってる」
「若」
景は目元を押さえた。
「変態度が爆上がりでございます」
「わたくし、
育て方を誤ったと再認識しております」
泣いてもいないのに涙を拭うふりをする。
「今さらだ」
レオは機嫌良さそうに笑った。
唯衣不足が少しだけ解消されたらしい。
ソファに深く身体を預ける。
「よし」
「あと六ヶ月で北米を片付ける」
「リモート体制を完成させる」
景は黙って聞いていた。
「その後は日本だ」
「朝比奈の動向は引き続き報告しろ」
「それと」
レオは少しだけ目を閉じた。
「唯衣を頼む」
「御意」
景は静かに一礼した。
ニューヨークの夜は、
ゆっくりと更けていった。




