新入生歓迎会 一日目 真壁唯衣Side
唯衣は週末の時間を使い、
雫から獣人族の生態について
講義を受けている。
それが終われば、
二人でのお茶会が始まる。
唯衣にとって、
心から息抜きできる大切なひとときだ。
雫は狼族の優秀な医師であり、
かつて唯衣の運命を左右した
「偽番薬」の一件で救ってくれた
恩人でもある。
「今日はここまで。
……それじゃ、お茶にしましょ!」
「はい! ありがとうございます!」
今日一日で
新しい知識を吸収できた唯衣は、
満足げに紅茶のカップを手に取った。
他愛もない世間話に花が咲く。
「そういえば若様が北米に渡って
二ヶ月経つけど、その後、若様はどう?」
雫がレオの様子をうかがうと、
唯衣の表情がふわりと柔らかくなった。
「ふふふ、相変わらずです。
毎日、寝る前に必ず電話をくれて」
「あらあら、それはご熱心ね」
「あと」
「今年は
発情期がないって言っていました」
唯衣が思い出したように伝えると、
雫はカップをソーサーに置き、
専門家としての顔を見せた。
「偽番薬の影響ね」
「無理やりこじ開けた発情を
『今年は終わり』と身体が認識した」
「……そう考えると筋が通るわ」
雫は少しの間をおいてから、
じっと唯衣を見つめた。
「唯衣ちゃん自身は大丈夫? 」
「身体に不調はない?」
「大丈夫です」
「ここで皆さまが優しくしてくれるから、
毎日楽しいですよ」
唯衣が屈託なく笑うと、
雫は満足そうに微笑んだ。
「夏には帰ってきてほしいわね」
「……ほんと、こんな可愛い唯衣ちゃんを
ほったらかしにするなんて、若様も罪な人ね」
「ふふっ」
「ねえ、帰ってきたら、
ちょっと血をわけてもらえないかしら。
獣神化の記録なんて
文献の中でしか見たことがないもの」
「もう、雫さんったら。
じゃあレオにたくさんレバーやほうれん草を
食べてもらって、
雫さんのために献血できるように
準備しておきますね」
二人は顔を見合わせ、
肩を震わせて笑い合った。
そんな和やかな空気の中、
雫がふとフォークを止め、
真剣な眼差しを向ける。
「……唯衣ちゃん」
「一つ、気になっていることがあるの」
「うん? 何ですか?」
「はっきりとは言えないんだけど……」
「あなたから、獣人族の匂いがするのよ」
唯衣は冗談のように笑って返した。
「えっ、ありえないですよ!」
「そうだよね」
「種族が変わるなんて、
この世界じゃ百パーセント
ありえないことだから」
雫はそう言いながら
ケーキを口に運んだが、
どこか考え込んでいるようだ。
「本当、このケーキ美味しい!」
唯衣が感動している。
「そうでしょう?
ほんと何個でもいけちゃいそうね」
唯衣はお茶目に尋ねた。
「それで、結局わたしからは何の獣人の匂いがするんですか? 」
「狼族だと嬉しいな」
「うーん」
「それがね。狼族じゃなさそうなのよね……」
雫は首を傾げ、
困ったように眉を寄せた。
「なんだろう」
「すべての種族が混ざり合っているような、
不思議な匂い」
「……まぁ、私の勘違いかもしれないし」
「念のため、おじいちゃんにも
それとなく聞いておくわ」
「?」
唯衣は首を傾げる。
けれど。
次に運ばれてきた焼き菓子に気を取られ、
その話はすぐに忘れてしまった。
一方で
雫だけは、
カップの中の紅茶を見つめながら、
どこか考え込むように黙り込んでいた。




