新入生歓迎会3 一日目
その日の夜。
歓迎会はすっかり盛り上がっていた。
お酒も入り、
今夜ばかりは無礼講。
課も種族も関係なく、
あちこちで笑い声が響いている。
そんな中、
陽向は少し離れた場所で、
困ったような顔をしている千景を見つけた。
「リーダー、何かありましたか?」
「あっ、朝比奈くんか」
千景は小さく肩を竦める。
「急にクライアントから
確認したい案件が来ちゃってね。
でも今日、
PCを置いてきてるんだよね。
朝比奈くんは持ってる?」
「あっ、すみません。俺も家です」
「だよねぇ。持ち込み禁止だし、
みんな持ってないだろうなぁ」
千景は少し考えてから、
「あー……唯衣ちゃんに頼むか」
と呟いた。
その瞬間だった。
(真壁先輩ですか!?)
陽向の耳がぴんっと立ち、
尻尾が勢いよく揺れる。
「俺、電話します!」
「えっ?」
千景が目を瞬かせる。
「いいの? 君たちの歓迎会だよ?」
「大丈夫ッス! すぐ済ませて戻ります!」
「そう? じゃあ悪いけどお願い」
千景がクライアントからの確認事項と
返信内容を伝えている間、
陽向の心臓は高鳴り続けていた。
(なんだ、俺……電話すればよかったんだ!)
そうすれば、先輩に直接聞ける。
なぜ来なかったのか。
何をしているのか。
元気なのか。
歓迎会会場を飛び出し、
人気のない庭のテラスへ向かう。
夜風が火照った頬を冷やしていくが、
手のひらにはじっとりと汗が滲んでいた。
ただの仕事の電話。
そう自分に言い聞かせても、
声が聞けるという事実だけで、
胸がどくどくと騒ぐ。
陽向は大きく深呼吸をし、
意を決して真壁先輩の番号を押した。
「真壁先輩ッスか?」
『えっ? 朝比奈くん?』
電話の向こうから聞こえてきた穏やかな声に、
陽向の尻尾がまたしても正直に揺れた。
『どうしたの?』
「橘リーダーからの伝言を
お伝えしたくて……。
あの、今お時間大丈夫ッスか?」
『うん、大丈夫だよ』
「ありがとうございます」
深呼吸をして、
千景から頼まれた内容を正確に伝える。
『ありがとう。今から対応しておくね』
「はい!」
通話を切ろうとする先輩に、
陽向は思わず声を張り上げていた。
「あの!」
『えっ? どうしたの?』
「あ、あのですね……」
言葉が出てこない。
勢いで呼び止めたのに、
肝心の内容が思いつかない。
だが、
唯衣は急かさず穏やかに待ってくれている。
「どうして……今日、
来てくれなかったのかなって」
口走ってから、しまったと後悔した。
『あっ』
唯衣が小さく声を上げる。
『ごめんなさい。
わたし、アシスタントだし、
今まで一度も参加したことなかったの』
「そうなんッスね……」
陽向は肩を落とした。
だが、気付けば口は勝手に動いていた。
「俺は……一緒にいたかったッス」
一瞬の沈黙。
熱くなる顔。
余計なことを言ってしまった、
という焦りと同時に、
唯衣のふわりと笑う声が耳に届いた。
『そうなの?
そう言ってもらえると嬉しいな』
その声に、
胸の奥の重たい澱がスッと消えていく。
「あ、そうだ! お土産買って帰ります」
『えっ?』
「何がいいですか?」
『いいよ、気を遣わなくて。
朝比奈くんが楽しんでくれるのが一番だから』
優しい声だった。
だからこそ、
何かを渡したくてたまらなくなる。
「いや、せっかくなので買います!」
『ふふっ。じゃあ、楽しみにしてるね』
その一言だけで、
心臓が再び跳ね上がる。
「では! 失礼します!」
逃げるように通話を切り、
陽向はそのまま夜風の吹く
テラスで一人しゃがみ込んだ。
顔はまだ熱い。
胸もまだ騒がしい。
けれど、先ほどまでのモヤモヤは、
もうどこにもなかった。




