新入生歓迎会2 一日目
バスに乗り込むと、
車内はすでに賑やかだった。
同期たちが楽しそうに話し、
先輩たちも普段よりずっと
気さくに笑っている。
けれど、
陽向には何も入ってこなかった。
『結婚してるよ』
『真壁統括と』
脳内に張り付いた言葉を消そうと、
陽向は車窓の景色を眺めながら
小さく息を吐いた。
真壁先輩が結婚していた。
しかも、
あの北米CEOの真壁統括と。
狼族の人と。
「お前ほんと大丈夫か?
今日のために張り切りすぎて
仕事しすぎたんじゃね?」
隣の席から同期の人族神谷陸が笑う。
陽向もつられて口角を上げるが、
心までうまく笑えない。
喉の奥が少しだけ、
締め付けられるような感覚があった。
自分が
何をそんなにショック受けているのか。
真壁先輩が来なかったことか、
結婚していたことか、
それとも自分だけが
その事実を知らなかったことなのか。
答えは出ないまま、
胸の奥で重たい澱のようなものが沈んでいく。
パーキングエリアへ到着すると、
陽向はふらりと土産物売り場へ入った。
色とりどりのお守りや雑貨が並ぶ中で、
一つの商品に目が止まった。
天然石のブレスレットだ。
それぞれに願いが込められていて、
その中の一つには
『好きな人に贈ると両想いになれる』
という札が付いていた。
「……」
気付けば、
陽向は二つのブレスレットを手に取っていた。
「お前、何買ってんの?」
陸の声に、慌てて袋を隠す。
「別に! お守りみたいなもん!」
そう言い返しながらも、
なぜ二つも買ったのか、
自分でも説明がつかなかった。
保養地に到着し、
部屋割り表を確認して
それぞれの部屋へ向かう。
荷物を置いて窓の外を見上げた陽向は、
思わず足を止めた。
大きな窓の向こうには、
青く輝く湖が広がっている。
その奥には深い森。
湖畔には散歩道も整備されていて、
歩くだけでも気持ち良さそうだ。
「すげぇ……」
思わず声が漏れる。
歓迎会に会社が力を入れている理由が、
少しだけ分かった気がした。
けれど
「はぁ……」
陽向は小さくため息を吐いた。
こんな景色なら、
真壁先輩と歩きたかったな。
仕事の話だけじゃなくて、
好きな食べ物とか、
休日の過ごし方とか、
そんな何でもない話をしてみたかった。
窓の外を眺めながら
そんなことを考えていると、
部屋のドアが勢いよく開いた。
「陽向ー! 湖行こうぜ!
せっかく来たんだし楽しもうぜ!」
陸 筆頭に同期たちが次々と押し寄せてくる。
「お、おう!」
返事をする間もなく腕を掴まれた。
「ほら行くぞ! 新人は元気が仕事だ!」
「意味分かんねぇ!」
同期の屈託のない笑い声に、
陽向は思わずつられて笑う。
そのまま引っ張られるようにして、
陽向は部屋を後にした。




