新入社員2
通常業務を終えたあと、
今日は秘書課コースの受講日だ。
開始時間が迫り、
慌てて会議室へ向かっていたときだった。
「真壁先輩!」
背後から元気な声が飛んでくる。
振り返ると、
朝比奈くんがこちらへ手を振っていた。
「あっ、朝比奈くん」
「もう帰るんですか?」
「ううん、これから研修なの。
ごめんなさい、少し急いでいて」
わたしがそう伝えると、
陽向は慌てて背筋を伸ばした。
「そうだったんスね!
引き止めてすみません!」
「何かあった?」
そう尋ねると、陽向は一瞬固まった。
それから、照れくさそうに笑う。
「いや……特にはないッス」
「ほんと?」
「はい! 呼んでみただけッス!」
元気よく言い切る姿に、
思わず笑みがこぼれる。
「じゃあ、行ってくるね」
「はい! 研修頑張ってください!
いってらっしゃい!」
元気な声に見送られながら、
わたしは少しだけ首を傾げた。
朝比奈くん、
何か困ったことでもあったのだろうか。
そんなことを考えながら、
会議室へと急いだ。
研修を終えると、
紅葉さんが迎えに来てくれていた。
車へ乗り込み、
シートへ深く身体を預ける。
今日も長い一日だった。
「真壁家へ帰る」
その言葉に、
まだ少しだけ違和感がある。
隣にいるはずの人がいないからだ。
「唯衣様、お疲れですね」
運転席から、
紅葉さんが心配そうに声をかけてくれた。
「うん……まだ慣れなくて。
レオがいないことに」
そう小さくこぼすと、
紅葉さんは少しだけ微笑んだ。
「仕方ありませんよ」
「……むしろ若様の方が、
壊れていると思います」
思わず笑ってしまう。
確かに、否定はできない。
すると紅葉さんが、
何かを思い出したように言った。
「あっ、そうでした」
「本日の唯衣様へのご褒美がございます」
「ご褒美?」
「若様ご着用のワイシャツです」
「本日、昼便で届きました。
真空パック済みですので、
お風呂上がりの寝間着として
ご用意しております」
「えっ!?」
思わず身体を起こす。
紅葉さんはどこか誇らしげだ。
「景様より、厳重に受け取っております」
レオのワイシャツ。
それを思うだけで、
胸がふわりと温かくなる。
「ふふっ」
気付けば笑っていた。
レオもきっと、向こうで頑張っている。
車の背もたれに身体を預けると、
今日の疲れが少しだけ軽くなった気がした。
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